弁護士
本橋 光一郎
後継ぎ遺贈型受益者連続信託という長い名前の言葉を耳にしている方もいらっしゃると思います。
あるいは聞いたことはあるものの、その内容はよくわかっていないという方もおられるでしょう。
高齢化社会における信託の活用や、中小企業や農業などの事業承継のための信託の活用が注目されている中でも、その有力な手法の1つとなるのが後継ぎ遺贈型受益者連続信託ですので、今回はこれをとりあげます。
まず、「後継ぎ遺贈」とは、どんなものをいうのでしょうか。
通常、「後継ぎ遺贈」とは、第1次受贈者が遺贈された財産をまず受け取るが、第1次受贈者が死亡したときなど、一定の事由が生じたときに、第2次受贈者がつぎに遺贈された財産を受け取るという形の遺贈のことを言います。
この形の遺贈の有効性については、第1次受贈者が遺贈された財産を受け取ることは有効ということは争いないのですが、その後に一定の事由が生じたときに第2次受贈者が当然に受け取れるかについては問題があります。
むしろ多くの学説は、第1次受贈者が財産について完全な所有者になった以上、必ずしも第2次受贈者が取得できるかどうかは不確実であって、第2次受贈者が財産を取得することは、遺贈者の単なる希望の表明に過ぎない(=第2次の後継ぎ遺贈は法律上の効力としては、ない、すなわち、無効である)とみる見解に立っているものとみられます。
しかし、2007年9月から施行された新しい信託法において、信託法91条により上記の後継ぎ遺贈と類似する効果をもつ受益者連続信託の制度が創設されました。
そして「受益者の死亡により受益者の持つ受益権が消滅し、他の者が新たに受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次ほかの者が受益権を取得する旨の定めを含む)のある信託は、当該信託がされた時から30年経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する」こととされました。
前述のとおり、「後継ぎ遺贈」については、第2次受贈者の取得については、原則として効力がないと考えるのが学説上有力であります。
したがいまして、遺言者としては、遺言者の死後、自分(遺言者)の後添い(後妻)に財産を渡して、後妻の生活の安定を図りたいが、後妻の死亡後は、先妻の子である長男、次男に財産を渡したいという意向がある場合は、遺言書において、まずは、後妻に相続させる、その後、後妻死亡後は(先妻との間の)長男、次男に相続させると記載しておいても、後妻が別な内容の遺言を書いたり、あるいは、何ら遺言書がないとしても、先妻の子は、後妻の死亡による相続において後妻の相続人ではないのが通常ですので、結局のところ、(先妻との間の)長男、次男に相続させるという第2次相続の部分は、効力を生じないことになってしまいます。
ところが、信託法91条の後継ぎ遺贈型受益者連続信託を使えば、上述の例では委託者が受託者に信託を設定し、委託者死亡後は、後妻を第1次受益者として指定し、また、後妻の死亡後は、先妻の子である長男、次男を第2次受益者として指定することが可能となりました。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託により、事業用その他の財産を比較的長期に承継させていく道筋をつけることが可能となりました。
その委託者の意思に基づく受益者連続信託の内容を実現するためには、適切なる信託受託者の存在が不可欠となります。
個人の受託者で適任の方がいるということは、少ないでしょう。
また、信託銀行は、資金を預かる、金銭の信託を受けることは、多くありますが、不動産の信託を直接に受けるということはそう多くはありません。
しかし、最近、企業の事業承継に関して、信託銀行が信託受託者として、株式、有価証券を預り、受益者連続信託を行なうケースが増えているということは注目されます。
事業承継に関して、信託銀行を介して株式等の受益者連続信託を活用するという途も検討するべきです。