弁護士
本橋 光一郎
最近、遺言代用信託という言葉がよく聞かれます。
遺言代用信託の信託商品が人気を呼んでいるとも言われています。
では、遺言代用信託とはどのようなものでしょうか。
遺言代用信託というのは、法律条文に使われている言葉ではありません。
顧客(委託者)と信託銀行等の金融機関(受託者)との間で契約を結び委託者が遺言をする代りに、受託者においてお金を管理するという金融機関のサービスをいいます。
遺言と同じような効果を生じさせるので、遺言代用信託という用語が使われています。
以下では、主として信託銀行等の金融機関が取扱う遺言代用信託の信託商品をとり上げてご説明いたします。
[一時金型]
委託者兼第一受益者が受託者(信託銀行等)と契約を結んで金銭を信託します。
委託者兼第一受益者が死亡した時に第二受益者に権利を帰属させ受託者(信託銀行等)は、第二受益者に対して一時金を交付します。
第二受益者は葬儀費用や当面の生活費に充てることが出来ます。
その金額はだいたい50万~500万円の範囲内のことが多いです。
[年金型]
委託者兼第一受益者が受託者(信託銀行等)と契約して行ないます。
委託者兼第一受益者が死亡した後は、第二受益者(配偶者や子)に一定額の年金を毎月なり(一定時期)に支払っていくやり方です。
委託者の死後に配偶者や子の生活が困るのを防ぐことに着目しているものです。
なお、委託者兼第一受益者の生存中(相続開始前)は、委託者兼第一受益者自身が一定額の年金を受け取るというやり方もあり得ます。
この信託商品の内容は、信託銀行等で少しずつ違っていますので、ご注意ください。期間は5年以上25年とか30年年くらいのものが多くなっています。
なお、[一時金型]と[年金型]の併用というやり方もあります。
委託者兼第一受益者の死亡時に第二受益者に一時金を支払ったうえで、さらに、年金を一定時期に払うということを決めておくということもあります。
また、[年金型]には委託者兼第一受益者死亡後は、第二受益者が年金として受け取るが、その後にその第二受益者も死亡したときは、第三受益者が残金を一時金で受け取るとか、第三受益者が年金を一定時期に受け取るというようなバリエーションもあり得ます。
[一時金型]の遺言代用信託の効用としては、委託者死亡後の出金が、比較的簡単に行えることがあげられます。
通常の相続の場合、相続人の確定その他相続手続きが完了するまでは、金融機関からお金を出すことには困難が伴いますが、遺言代用信託を利用した場合には、死亡診断書、本人確認書類、印鑑証明書等の提出で足りる扱いとなっており、引き出しが簡単ですので、受取人(相続人)にとっては、葬儀費用、当面の生活費等の支出に便宜であるということがいえます。
[年金型]の遺言代用信託の効用としては、遺産の全部を一ぺんに受取人(配偶者や子ら)に渡してしまうと、受取人がそれを無計画に使ってしまい、受取人のその後の生活面が気がかりということがあります。
[年金型]の遺言代用信託の場合は、細く長く支援することになっているので、委託者としては受取人(配偶者や子ら)の生活について長期に渡って安心であるということがいえます。
受取人(信託の場合、受益者と呼ばれます)は、委託者が受取人(受益者)を生前に決めておきます。
配偶者に○○○万円、長男に○○○万円、次男に○○○万円、長女に○○○万円など、何人かの者に金額に分けて渡すように定めることも可能です。
信託銀行等との契約の際、委託者として、受取人(受益者)を誰にするかについて、信託銀行と協議して適切な内容の指定をしておくことが肝心です。