弁護士
下田 俊夫
近時、空き家の急増が社会的な問題となっています。
相続人のいない者が亡くなり、それまで住んでいた家が空き家となったり、地方の実家に住む親が亡くなった後、遠方の都市部に住む子どもが相続したものの、年1回も実家に赴くことがなく、全く維持管理できなかったりするなどして、これからも空き家は増え続けていくことが予想されます。
空き家が長期間放置されたままになると、倒壊、放火、不審者による占拠など、防災、衛生、景観等の面で地域住民の生活環境に大きな影響が及ぶことになります。
空き家対策は、かつて各市町村が条例で対策を定めているケースが多かったものの、実効性は乏しく、抜本的な対策にはなっていませんでした。そこで、国は、空き家対策を効果的なものとするため、平成26年11月、空き家対策特別措置法(正式名称:空家等対策の推進に関する特別措置法)を成立させ、同法は翌27年5月から全面施行されました。
国土交通省のHPでも、「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」が掲載されています。
空き家対策特別措置法では、次の状態にある空き家を「特定空家等」とし、市町村は、特定空家等に対して、立入調査が可能となり、除却、修繕、立木竹の伐採等の措置の助言又は指導、勧告、命令が可能となるほか、行政代執行の方法により強制執行(空き家を解体除去すること)が可能とされました。
※「特定空家等」
①倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
②著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
空き家対策に向けられる財政や人員等の問題もありますが、今後、空き家対策特別措置法の活用により、空き家対策が進められていくことが期待されます。
空き家が放置されてしまう要因の一つとして、固定資産税等が軽減されるという税制優遇措置があることが指摘されていました。
参考:東京都主税局<都税Q&A><都税:固定資産税(土地・家屋)・都市計画税>
ほとんど利用する見込みのない廃屋同然の家屋でも、その敷地は住宅用地とみなされます。
その場合、更地の場合よりも、固定資産税が最大1/6、都市計画税が最大1/3まで減額されることになっていました。
空き家を取り壊すとなれば、高い解体費用を払ったうえに税金が数倍に跳ね上がるというのでは、空き家のまま放置しておいたほうが得ということになっていたのです。
空き家対策特別措置法の制定にあわせて、税制面からも空き家の解消を促すため、これまで空き家にも適用されていた固定資産税の優遇措置が除外されることとなりました。
これにより、これまで1/6に軽減されていた固定資産税が元の税率に戻る、すなわち、今までの6倍の額を支払わなければならないということになりました。
空き家を放置すると税負担が大きくなるとすることで、空き家を解消させようというわけです。
参考:東京都主税局<税目別メニュー><固定資産税(土地・家屋)・都市計画税><「特定空家等」に該当すると土地に対する固定資産税・都市計画税の税額が高くなる可能性があります>
また、平成28年4月から、相続した空き家を売却した場合にも、一定の条件を満たすと、譲渡所得の「3,000万円の特別控除」が適用されるようになりました。
細かい条件がありますが、簡単にいうと、相続した空き家を、耐震改修して売却するか、解体して更地にして売却すると、譲渡所得の3,000万円の特別控除の特例が適用されるというものです。要するに、「危険な空き家を減らすことに貢献すれば、減税します。」というものです。これもまた、税制面で空き家の解消を促す施策となります。
地方の実家に住む親が亡くなり、遺産が廃屋同然の実家しかないという場合、相続人である都市部に住む子としては、実家の維持管理もできないし、売却処分も見込めないとして、いっそのこと、相続を放棄してしまおうということが考えられます。
しかしながら、相続人は、相続を放棄さえすれば、空き家になる実家について、その後の一切の責任を免れることができるわけではないので、注意が必要です。
相続人全員が相続放棄して相続人が不存在となりますと、亡くなった人の相続財産は法人とされ、利害関係人等の請求によって選任された相続財産管理人が管理することとなり、最終的には、国庫に帰属されることになります(通常、不動産がそのまま国庫に帰属されることはなく、相続財産管理人のもとで売却処分され、売却代金が国庫に帰属されることとなります)。
他方、民法940条は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と定めています。
相続財産管理人は、同条にいう「相続人となった者」そのものとはいえませんが、相続放棄した(元)相続人は、相続財産管理人が選任されるまでは、自己の財産におけるのと同一の注意義務を負うものと考えられます。
そのため、相続放棄した後、何もしないまま何年も放置し、その後、空き家となっている実家が倒壊したり、出火したりするなどして近隣に損害を与えた場合、何らかの法的責任を負うこととなる可能性があるのです。
したがって、相続を放棄したとしても、その後の法的責任を回避するためには、自ら相続財産管理人の選任の申立てを行うなどして、空き家が適切に管理・処分されるような措置を講ずる必要があります。