弁護士
下田 俊夫
日本では不動産登記簿が整備されており、登記簿をみれば土地の所有者がどこの誰であるかを知ることができます。もっとも、登記簿をみても所有者が直ちにわからず、また、所有者がわかっても連絡がつかない土地、いわゆる所有者不明土地が多数存在します。国土交通省による平成29年度調査では、所有者不明土地は全国の土地の約2割に上り、九州全土の面積を上回るとされ、その面積は今後さらに増大すると見込まれています。
所有者不明土地は、適切な管理がなされず放置されたままになっていることが多く、公共事業の実施や民間取引を妨げるなどの多くの問題を引き起こしています。そのため、所有者不明土地が発生することを予防し、また、既に所有者不明土地となっている土地の利用円滑化を図る方策が検討されていました。
先日4月21日、所有者不明土地の解消策を盛り込んだ改正民法や関係する法律が参議院で可決し、成立しました。改正法は、2023年度にも施行される見通しです。
所有者不明土地が発生する主な原因は、相続登記や住所変更登記の申請が義務ではないことにあるとされています。そのため、改正不動産登記法は、これまで任意だった相続登記申請について、相続人が土地の取得を知った日から3年以内に申請することを義務付け、申請を怠った場合、10万円以下の過料が科されることになりました。住所変更についても2年以内の申請を義務付け、申請を怠った場合、5万円以下の過料が科されることになりました。
他方、土地の利用ニーズの低下等により土地を手放したい者が増加していること、相続を契機として土地を望まず取得した者の負担感が大きく管理不全を招いていることを踏まえて、相続により取得した土地を手放して国庫に帰属させることができる制度が創設されました。もっとも、管理コストの国への転嫁や土地の管理がおろそかになることに配慮して、一定の要件が設定され、法務大臣(法務局)による要件審査・承認を必要とし、また、10年分の土地管理費相当額の金額を納付する必要があります。
現行の不在者財産管理制度等は、人単位で財産全般を管理する必要があるため、所有者不明土地の管理の観点からは非効率になりがちでした。また、土地の共有者の一部が不明であるケースでは、意思決定ができず、土地の造成や売却・賃貸が困難になるなどの問題が発生していました。
そのため、個々の土地の管理に特化した所有者不明土地管理制度や、共有者の一部が不明である場合でも、土地の利用・処分を可能とする制度等が創設されました。
具体的には、裁判所が所有者を特定できない土地の管理人を選任して、所有者に代わって管理し、(裁判所の許可を得て)売却を行うことができるようになります。また、不明共有者がいる場合、裁判所の関与の下で、不明共有者に対して公告をした上で、残りの共有者の同意で、共有物の変更や管理を可能にする制度や、不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭を供託することにより、不明共有者の共有持分を取得して不動産の共有関係を解消する仕組みが創設されました。
他に、遺産分割が長期間放置されて共有状態の解消が困難となっているケースがあることを踏まえて、相続開始から10年を経過したときは、個別案件ごとに異なる具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行う仕組みが創設されました。