弁護士
篠田 大地
遺言は撤回することが自由です(民法1022条)。
撤回は、遺言を破棄する他(民法1024条)、書き換えることによって(民法1023条)、行うことが可能です。
なお、公正証書遺言の場合、遺言者が保管する正本を破棄しても、公証役場に原本が保管されているため、撤回にはあたらないと考えられている点は注意が必要です。
しかしながら、遺言を作成するにあたり、撤回できないようにしたいというニーズがあることもあります。
このような場合、純粋な遺言として撤回できない遺言を作ることは難しいのですが、同様の法的効果をもたらす手段があります。
まず、撤回できない遺言と同様の効果をもたらす方法として、負担付死因贈与を行うという方法がありえます。
死因贈与とは、贈与者の死亡によって贈与の効力を生ずるものとされた贈与契約をいいます。
この死因贈与も死因贈与も遺贈の規定が準用されるので(民法554条)、撤回は自由と考えられています。
ただ、死因贈与に付帯して、受贈者に一定の法律上の義務を負担させる負担付死因贈与については、一定の場合、撤回が制限されると考えられています。
なお、負担の典型例としては、贈与者の生活の世話をすること、などがあげられます。
撤回が制限される負担付死因贈与は、以下のすべてを満たすような場合です(最二判昭和57年4月30日)。
① 負担の履行期が贈与者の生前と定められていること
② 負担の全部またはそれに類する程度の履行をしていること
③ 特段の事情がないこと
次に、撤回できない遺言と同様の効果をもたらす方法として、遺言代用信託を用いる法がありえます。
遺言代用信託とは委託者の死亡の時に、受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する定めのある信託等をいいます。
信託というと難しそうですが、遺言代用信託を用いても、遺言で実現しようとしていることと同様のことを実現することは通常は可能と考えられます。
この遺言代用信託については、委託者は受益者の変更権を有すると考えられていますが、信託行為に規定することにより、委託者が受益者変更権を有しないとすることもできるされています(信託法90条1項)。
したがって、遺言代用信託において、遺言者が受益者変更権を有しない旨定めておけば、後に遺言代用信託を撤回することはできなくなります。
上記のとおり、撤回できない遺言(と同様の効果を有する方法)として、「負担付死因贈与」、「遺言代用信託」が考えられます。
しかし、「負担付死因贈与」は、「負担の全部またはそれに類する程度の履行をしていること」など、条件が不明確な点もあるので、簡易に撤回できない遺言(と同様の効果を有する方法)を作成するには「遺言代用信託」が良いと考えられます。