弁護士
篠田 大地
ただし、以下のような場合には注意が必要です。
教育資金贈与信託は、子が30歳未満であれば、子に対して行うことも可能です。
そして、子に対して教育資金贈与信託を行った場合には、共同相続人が信託受益権を取得し、受益となりますので、特別受益に該当する場合があります。
この場合、次に問題となるのが、教育資金贈与信託が、特別受益の要件である「生計の資本としての贈与」に該当するかどうかです。
通常の親子関係の場合、高校や大学などの学資についても、扶養義務の履行であり「生計の資本としての贈与」に該当しないという見解が多いように思われますので、教育資金贈与信託がこのような使途で用いられたのであれば、特別受益に該当しないと考えられます。
真実は子に対する贈与であるのに、名義のみ孫としたというような場合には、子に対する贈与とみて、特別受益に該当する場合があります。
ただし、教育資金贈与信託では、教育資金の払い出しのために、信託銀行に領収書等の提出が必要とされていることからすると、真実とは異なる使用をすることは難しいと考えられ、このケースに該当する事例は多くないものと思われます。
孫が養子の場合には、孫は推定相続人に該当しますので、孫が祖父母より教育資金贈与信託を受けた場合には、特別受益に該当する場合があります。
この場合も、次に問題となるのが、教育資金贈与信託が、特別受益の要件である「生計の資本としての贈与」に該当するかどうかです。祖父母と孫について、通常の親子関係の場合と同様、学資について扶養義務の履行であり、「生計の資本としての贈与」に該当しないと考えてよいかは、議論が分かれるところかもしれません。
個別の祖父母と孫との関係によるところも多いものと思われます。
子が祖父母より先に死亡している場合には、孫は代襲相続により推定相続人に該当しますので、子が死亡した状態で、孫が祖父母より教育資金贈与信託を受けた場合には、特別受益に該当する場合があります。
この場合も、「生計の資本としての贈与」に該当するかどうかが問題となります。
一方、子が死亡する以前に孫が祖父母より教育資金贈与信託を受け、その後子が死亡した場合には、特別受益には該当しないと考えるのが通説的見解です。
教育資金贈与信託を受けた孫が、遺言において包括遺贈(財産の全部または一部を一定の割合で示して遺贈すること)を受けた場合、包括受遺者である孫は、相続人と同一の権利義務を有することになります(民法990条)。
したがって、教育資金贈与信託も特別受益に該当する可能性がありますが、この場合、被相続人は持戻し免除をする意図であったと考えられることから、持戻しを否定するのが通説的見解です。
以上のとおり、教育資金贈与信託は、原則として特別受益になりませんが、一定の場合には、特別受益に該当することもあります。
特別受益に該当する場合、受贈者が教育資金として未だ実際に使用していないとしても、信託受益権の価額自体を特別受益と考えることになると思われますので、全額が特別受益になると考えられます。