弁護士
篠田 大地
相続対策として養子縁組が利用されることがあります。
ただし、相続対策として養子縁組を利用する際、いくつか注意点がありますので、以下では、それぞれについて解説します。
養子縁組を行うと、養子は法定相続分を取得します。
被相続人に、相続人として、配偶者と実子2人がいた場合、法定相続分は配偶者1/2、実子各1/4です。
この場合に、被相続人が養子縁組を行うと、法定相続分は配偶者1/2、実子各1/6、養子1/6になります。
養子は遺留分も取得します。
上記の例を前提とすると、養子がいない場合には、遺留分は配偶者1/4、実子各1/8ですが、
養子縁組を行うと、遺留分は配偶者1/4、実子1/12、養子1/12になります。
以上の例から分かるように、養子縁組を行うと、実子の法定相続分や遺留分が減ることになります。
このような効果があることから、例えば特定の実子になるべく遺産を相続させたくない場合に、養子縁組が利用されることがあります。
たとえば上記の例だと、実子Aと実子Bがおり、被相続人としては、実子Aになるべく多く、実子Bになるべく少なく遺産を遺したいという場合、
実子Aの子(被相続人にとっての孫)と養子縁組する、ということがありえます。
このようにすることで、実子A家族の法定相続分は1/6+1/6=1/3、遺留分は1/12+1/12=1/6となる一方、
実子Bの法定相続分は1/12、遺留分は1/12となります。
養子縁組を行うと、法定相続人が増えることから、相続税の基礎控除額や生命保険の非課税限度額が増え、節税効果があります。
現在だと、基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数となっているので、養子1人あたり600万円基礎控除額が増えることになります。
また、生命保険金の非課税限度額は、500万円×法定相続人の数となっているので、養子1人あたり500万円非課税限度額が増えることになります。
ただし、基礎控除額や非課税限度額が増えるのは、被相続人に実の子供がいる場合は1人まで、被相続人に実の子供がいない場合は2人までとされています。
詳しくは、「養子縁組の効果はどのようなものですか」をご覧ください。
養子が成年の場合、養子縁組届を記載し、区役所に提出すれば行うことができます。
養子縁組届には、婚姻届と同様、証人2名の記入が必要ですが、それ以外に特段難しい手続きなどは必要ありません。
養子が未成年の場合には、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
ただし、孫を養子とする場合などについては、養子が未成年であっても許可を得る必要はありません(民法798条但書)。
また、養親が夫婦の場合には、養親は夫婦ともに未成年者を養子としなければならなかったり(民法795条)、15歳未満の養子の場合には、法定代理人の承諾が必要だったりなど(民法797条)、養子を未成年とする場合には、成年とは異なる点がありますので、注意が必要です。
詳しくは、「未成年者養子の注意点はなんですか」をご覧ください。
養子縁組の届出をしても、当事者間に縁組をする意思がないときは、養子縁組は無効になります(民法802条)。
「縁組をする意思」とは、縁組の届出をする意思(届出意思)+実際に養親子関係を形成する意思(実体的意思)が必要と考えられていますが、具体的には以下のような場合には、養子縁組は無効になります。
届出意思がない場合
・当事者が知らない間に届出がされた場合(一方が勝手に縁組届を書いて提出するなど)
・一方が正常な判断力を欠いた状態で縁組届を記載した場合(重度の認知症の場合など)
実体的意思がない場合
・置屋の抱え主が芸妓を拘束する目的でなす芸娼妓養子(大判T11.9.2)
・学区制を潜脱するための越境入学養子(岡山地判S35.3.7)
また、養子縁組の向こうが問題となった事例として、以下のような判例もあります。
・情交関係のある女性を養子とする妾養子は、直ちに無効とはならず、情交関係の態様や縁組の動機によって判断される(最判S46.10.22)
・専ら相続税の節税のためにした養子縁組は、それだけでは無効とはならない(最判H29.1.31)
上記のとおり、特に養子が成年の場合などは、養子縁組をすることは簡単です。
しかし、のちに様々な事情で養子縁組を撤回したいと考えたとしても、養子縁組の撤回は容易ではありません。
もちろん、養親及び養子の合意があれば、離縁届を提出すればそれで可能です。
しかしながら、一方が離縁を拒否する場合には、離縁は容易ではありません。
離縁の手続は、離婚の手続と似ており、一方のみが離縁を望む場合には、調停や裁判を行う必要があり、裁判によって離縁を行う場合には、「縁組を継続しがたい重大な事由があること」が必要となります(民法814条)。
遺言は撤回が可能ですが、養子縁組の場合には撤回が難しいため、注意が必要です。
詳しくは、「離縁はどのように行うのですか」をご覧ください。