弁護士
篠田 大地
平成30年に相続法改正に関する法律が成立し、平成31年にも施行されるとの話も出ています。
相続法改正の内容は多岐にわたりますが、今回は、その中でも「配偶者の居住権を保護するための方策」について解説いたします。
相続法改正では、「配偶者の居住権を保護するための方策」として、新たに以下の2つの権利を新設しました。
被相続人の配偶者が自宅に住んでいた場合、被相続人の死後も遺産分割等落ち着くまでの間、配偶者の居住権を保護するために、配偶者短期居住権が設けられました。
具体的には、配偶者は、被相続人の遺産である建物に無償で居住していた場合、以下の期間について、建物を無償で使用する権利を有します。
① 遺言がなく遺産分割をする必要がある場合
遺産分割の日又は相続開始から6か月のいずれか遅い日
② 遺言がある場合
建物取得者が配偶者に短期居住権の消滅の申入れをしてから6か月
なお、使用権原があるだけで収益権原はないため、建物の一部を貸家としている場合などでも、配偶者は家賃を受け取る権利はありません。
固定資産税等は配偶者が負担します。
被相続人の配偶者が自宅に住んでいた場合、なるべく配偶者がその後も自宅に長く住み続けられることを企図して、配偶者居住権が新設されました。
こちらの配偶者居住権は、被相続人の死後直ちに発生するわけではなく、遺産分割や遺贈により取得することになりますので、遺産分割や遺贈における選択肢が増えたということになります。
配偶者は、被相続人の遺産である建物に居住していた場合、以下の方法で、居住建物について無償で使用収益する権利を取得することができます。
① 遺産分割
② 遺贈
存続期間は、通常は生存配偶者の終身の間ですが、遺産分割協議や遺言などで別途定めることは可能です(新1030)。
配偶者居住権は登記をすることが可能です(新1031)。
配偶者は通常の必要費(固定資産税等)を負担します(新1034)。
配偶者は用法遵守義務や善管注意義務を負い、これに反したとき(例えば、配偶者が建物に居住しない場合)は建物所有者は配偶者居住権を消滅させることができます(新1032)。
配偶者居住権の評価方法については、以下の方法が提案されています。
この方法で相続人間で合意ができない場合には、鑑定の方法によることになります。
【建物の評価】
①配偶者居住権付所有権の価額
=固定資産税評価額×{法定耐用年数-(経過年数+存続年数)×ライプニッツ係数}/(法定耐用年数-経過年数)
配偶者居住権の存続期間が建物の残存耐用年数を超える場合には0円とします。
存続期間を終身とする場合には、平均余命を使います。
②配偶者居住権の価額
=固定資産税評価額-配偶者居住権付所有権の価額
【土地の評価】
①居住権付敷地の価額
=敷地の固定資産税評価額〔÷0.7〕×ライプニッツ係数
②居住権に基づく敷地利用権
=敷地の固定資産税評価額〔÷0.7〕-長期居住権付敷地の価額
(例1)マンション(築10年、鉄筋コンクリート造、固定資産税評価額2000万円)を対象として存続期間20年の配偶者居住権を設定した場合
①配偶者居住権付所有権の価額
=2000万×{47-(10+20)×0.554}/(47-10)=508万
②配偶者居住権の価額
=2000万-508万=1492万円
(例2)一戸建て(築10年、木造、建物固定資産税評価額1000万円。土地固定資産税評価額4000万円)を対象として存続期間15年の長期居住権を設定した場合
【建物】
①配偶者居住権付所有権の価額
存続期間が建物の残存耐用年数を超えるため0円
②配偶者居住権の価額
=1000万円
【土地】
①居住権付敷地の価額
4000万×0.642=2568万円
②居住権に基づく敷地利用権
4000万-2568万=1432万円
【遺言執行時】
・遺言により配偶者以外に自宅を相続させる旨記載をしていても、配偶者は短期居住権を取得することになります。
・配偶者の短期居住権を消滅させるためには、取得者から申入れを消滅の申し入れをする必要があります。
【遺言作成時】
・遺言作成時の選択肢のひとつとして、「配偶者居住権」が加わりました。
・たとえば、将来的には長男に自宅を相続させたいが、妻が存命中は妻に使用させたい、というような場合には、配偶者居住権を設定する遺言を作ることが考えられます(特に長男と妻とは折り合いが悪い場合)。