1 相続人に対する遺留分減殺請求
遺留分減殺請求は、相続人に対して行う場合と、相続人以外の受遺者に対して行う場合があります。
前者の典型例は、被相続人に子供が数人いるのに、特定の子供にすべての相続財産を相続させる旨の遺言を作成する場合に、何も受け取れなかった子供が、相続財産を受け取った子供に対して遺留分減殺請求をするというものです。
相続人に対して遺留分減殺請求を行う場合と、相続人以外に対して遺留分減殺請求を行う場合で最も異なるのは、相続人には、法定相続分や遺留分があることです。
これら法定相続分や遺留分が、遺留分減殺請求との関係で、どのような意味を持つのかを考える必要があります。
そして、判例上、遺留分減殺の対象となるのは、その遺贈や贈与がその者の遺留分を超えている部分と考えられています。
これは、民法1034条には、「遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。」と定められているところ、最判平成10年2月26日では、「相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法1034条にいう目的の価額に当たる」と判示されているためです。
法定相続分を超えた部分ではない点に注意が必要です。
2 具体例
たとえば、以下のようなケースを考えてみます。
・被相続人に子A、子B、子Cがいる
・被相続人は相続財産3000万円のうち、遺言により、子Aに対して2000万円を相続させ、子Bに対し1000万円を相続させた
上記のケースの場合、遺言では何も受け取れなかった子Cは誰に対していくらの遺留分減殺を請求することができるでしょうか。
まず、子Cの遺留分額を計算すると、
3000万円✕1/3✕1/2=500万円
となります。
そして、子Cはなにも受け取っていませんので、子Cの遺留分侵害額も500万円になります。
次は、子Cがこの500万円を子A、子Bのそれぞれにいくらずつを請求することができるかが問題になります。
この点について、まずは子A、子Bの遺留分額を計算すると、それぞれ子Cの遺留分額と同じですので、500万円になります。
したがって、子Aについては、2000万円-500万円=1500万円、子Bについては、1000万円-500万円=500万円がそれぞれ遺留分を超えている部分となります。
そして、子Cの遺留分減殺請求権は、この子Aの1500万円と子Bの500万円の割合に応じて減殺することになります。
したがって、子Cとしては、子Aに対しては、
500万円✕1500万円/(1500万円+500万円)=375万円
子Bに対しては、
500万円✕500万円/(1500万円+500万円)=125万円
を減殺請求することができるということになります。
3 相続法改正後について
相続法改正により遺留分減殺請求権は、遺留分侵害額請求権という債権となったため、上記のような議論は問題にならなくなりました。