相続放棄をしても遺留分侵害額請求を受ける可能性はあるでしょうか

1 相続放棄によって遺留分侵害額請求を免れることもありうる

相続放棄をすると、通常は遺留分侵害額請求を受けることは考えづらいですが、特殊なケースでは、相続放棄をしても遺留分侵害額請求を受けることはありえます。

たとえば、被相続人の子の1人が、被相続人から死亡直前に多額の贈与(特別受益)を受けていたが、被相続人の死後に相続放棄をした場合です。
ただ、相続放棄をすることで、遺留分侵害額請求を免れることもありえます。

以下で詳しく述べます。

2 生前贈与が遺留分減殺の対象になるか

被相続人から、生前贈与がなされた場合に、その贈与が遺留分の算定の基礎に含まれ、遺留分侵害額請求の対象になるかどうかは、相続人に対する生前贈与か、相続人以外に対する生前贈与かで、要件が異なります。

(1)相続人に対する生前贈与

相続人に対する生前贈与は、特別受益に該当する可能性があります。
そして、特別受益は、原則として、相続開始前10年内の贈与が遺留分の算定の基礎に算入されます。なお、相続開始の10年前の日より前にしたものでも、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、その贈与の価額が遺留分の算定の基礎に算入されることになります(民法1044条3項)。

(2)相続人以外に対する生前贈与

一方、相続人以外に対する生前贈与は、
①相続開始前の1年間にした贈与
②被相続人と受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与
のいずれかに該当する場合に限って、遺留分の算定の基礎に含まれます(民法1044条1項)。

2 相続放棄と遺留分

相続人が相続放棄を行った場合、相続人としての地位を失うことになります。
したがって、生前贈与についても、相続放棄前は、上記(1)によって遺留分を判断するのに対し、相続放棄後は、上記(2)によって遺留分を判断することになります。

したがって、相続放棄後であっても、相続開始前の1年間より前に行われた贈与で、被相続人と受贈者のいずれかが遺留分権利者に損害を加えることを知らなかった贈与の場合には、遺留分の算定の基礎に含まれないことになります。

3 具体例

具体例として、以下のケースを考えます。
・相続人が子A、子Bの2人
・被相続人は死亡5年前に害意なく1000万円を子Bに贈与した(持戻免除の意思表示なし)
・被相続人は死亡時には200万円を有していた

子Bが相続放棄をしない場合、
まず子Aは相続財産から200万円を取得します。
また、子Aの遺留分は、1000万円の贈与が特別受益とすれば、
(1000万円+200万円)×1/2×1/2-200万円=100万円
侵害されていることになりますので、100万円を子Bに対して遺留分侵害額請求することができます。

子Bが相続放棄をする場合、
まず子Aは相続財産から200万円を取得します。
次に、子Bへの1000万円の生前贈与は、1年以上前の生前贈与であり、遺留分の算定の基礎には含まれないため、遺留分の侵害はなく、子Aは遺留分侵害額請求をすることができない可能性があります。


遺留分についてのその他のQ&A