被相続人が生前贈与を行っていた場合、遺留分算定で考慮されるでしょうか

1 はじめに

被相続人が生前贈与を行っていた場合、遺留分算定で考慮されるか否かを考える際には、まずは、被相続人の贈与をした相手が、相続人かどうかによって区別します。

2 贈与の相手が相続人の場合

(1)特別受益に該当する場合

贈与をした相手が相続人の場合、特別受益に該当する贈与であれば遺留分の算定の基礎に含まれますし、遺留分算定の対象になります(最三小判平成10年3月24日)。
この場合、相続法改正前は、数十年前の贈与など、被相続人の死亡よりはるか昔に行われたものであっても、時期に関係なく、遺留分の算定の基礎に含まれていました。

しかし、相続法改正により、相続人に対する贈与については、原則として、特別受益に該当する贈与で、かつ、相続開始前の10年間にしたものに限り遺留分の算定の基盤に加えられます。また、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは相続開始の10年前の日よりも前にしたものでも遺留分の算定の基礎に加えられることとなりました(民法1044条3項)。

また、持戻し免除の意思表示がある場合であっても、遺留分減殺の対象になります。

例えば、以下のケースを考えてみます。
・相続人が妻、子A、子Bの3人
・被相続人は生前に3000万円を子Aに贈与
・遺言に全財産である3000万円を妻に遺贈する

以上のケースの場合、何も受け取っていない子Bは、
(3000万円(相続財産)+3000万円(生前贈与))×1/2(遺留分割合)×1/4(法定相続分)=750万円
の遺留分を有することになります。

(2)相続時になにも財産がない場合

例えば、以下のケースを考えてみます。
・相続人が子A、子Bの2人
・被相続人は生前に3000万円を子Aに贈与
・相続時に財産はゼロ

以上のケースの場合、何も受け取っていない子Bは、
3000万円(生前贈与)×1/2(遺留分割合)×1/2(法定相続分)=750万円
の遺留分を有することになります。
そして、原則として、3000万円の生前贈与を減殺することができます。

このように、相続財産が何もない場合であっても、受贈者に対して請求することが可能と考えられています。
ただし、最三小判平成10年3月24日では、「右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、」との限定を付しているため、特段の事情がある場合には、過去の生前贈与を減殺請求なしえない可能性がある点には留意が必要です。

(3)相続放棄をした場合

特別受益を受けた者が、相続放棄をした場合、相続放棄により相続人としての地位は失いますので、遺留分算定において、原則として、特別受益としての持戻しはできないと考えられています。
したがって、この場合、相続人以外の場合に贈与した場合と考えて、以下に述べる要件を満たす場合にのみ生前贈与が遺留分の算定の基礎に含まれることになります。

3 贈与の相手が相続人以外の場合

贈与した相手が相続人以外の場合には、
①相続開始前の1年間にした贈与
②被相続人と受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与
のいずれかの贈与の場合にのみ、遺留分の算定の基礎に含まれます(民法1044条1項)。

したがって、相続開始前の1年間より前に行われた贈与で、被相続人と受贈者のいずれかが遺留分権利者に損害を加えることを知らなかった贈与の場合には、遺留分の算定の基礎に含まれません。

なお、「遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与」か否かについては、「贈与財産の全財産に対する割合だけではなく、贈与の時期、贈与者の年齢、健康状態、職業などから将来財産が増加する可能性が少ないことを認識してなされた贈与であるか否かによるものと解すべき」とされています(東京地判昭和51年10月22日判時852号80頁)。
一概にはいえませんが、被相続人となるものが相当高齢になって、収入もない状態で、全財産を贈与する場合は、「遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与」に該当するといえるでしょうが、微妙な場合はケースバイケースと言えます。


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