遺留分を相続開始前に放棄することはできるでしょうか

1 遺留分の相続開始前の放棄は可能

遺留分権利者は、相続開始前に、家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することができます(民法1043条1項)。

特定の後継者に相続財産を集中させたい等の場合に利用されることがあり、毎年1000件余が申し立てられています。

2 遺留分の放棄の許可申立

遺留分放棄の許可は、被相続人となる者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います(家事事件手続法216条1項2号)。
申し立てることができるのは、遺留分を有する第1順位の相続人です。

家庭裁判所は、権利者の自由意思、放棄理由の合理性・必要性、放棄と引き替えの代償の有無などを考慮して許否を判断し、相当と認めるときは、許可の審判をします。
許可された事例として、
①死後の遺産紛争を懸念して、婚外子に財産を贈与して遺留分を放棄させる場合
②老親扶養のために親と同居する子以外が放棄する場合
などがあります(「新版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」445頁)。

一方、許可されなかった事例として、
①被相続人たる夫の発意によって、妻が被相続人となる夫に対する遺留分の放棄許可を求めた場合
②5年後に被相続人が遺留分権利者に300万円を贈与するとの約束の下で、遺留分の放棄許可を求めた場合
などがあります。

3 遺留分の放棄の効果

遺留分を放棄したからといって、他の共同相続人の遺留分が増加するわけではありません(民法1043条2項)。
被相続人の側から見れば、自由に処分できる財産が増加するということになります。

遺留分放棄は相続放棄とは異なります。
遺贈等がなされていない相続財産がある場合には、遺留分放棄をしていても、遺産分割により遺産を取得することはできます。
また、相続債務も承継しますので、相続債務の方が多い場合などは、被相続人の死後、相続放棄の手続をとる必要があります。

4 遺留分放棄許可の取消

遺留分放棄許可審判がなされた後、遺留分放棄許可を取り消したい場合には、再度家庭裁判所に申立てを行う必要があります。
遺留分の事前放棄の許可審判がなされた後に申立ての前提となった事情が変化し、遺留分放棄の状態を維持することが客観的に見て不合理・不相当となった場合には、放棄許可審判の取消しがなされます(家事事件手続法78条1項)。

5 遺留分の相続開始後の放棄

以上は相続開始前の遺留分放棄ですが、相続開始後に遺留分を放棄することも可能と考えられています。
この場合、家庭裁判所への申立て等は不要です。

遺留分減殺請求権は行使しない限り、特段の効果が生じないため、通常であれば、特段放棄をせずとも、行使をしないという方法で足ります。

しかしながら、相続人間で遺留分の行使をしないことを確認しておきたいなどという場合には、遺留分放棄に関する合意書等を作成しておくことも考えられます。


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