1 家賃を請求することは可能
遺留分減殺請求により不動産の共有持分を取得した場合、遺留分権利者は、共有持分に応じて、その不動産の家賃収入を請求することが可能です。
不動産の家賃収入は、法律上「法定果実」といいますが(民法88条2項)、不動産の共有持分を取得した場合、共有権者は持分に応じた果実収取権があるからです(民法206条、89条2項)。
請求可能なのは、民法1036条により、遺留分減殺請求があった日以後の果実と定められています。
相続開始から遺留分減殺請求権行使までの期間は含まれません。
これは、受贈者が遺留分侵害を知らないことが多く、知っていても果実を収取することが不確実なものであり、受贈者に酷であるからと考えられています。
2 管理費用等の取扱い
不動産の家賃収入がある場合、家賃収入を得るために要した管理費用等が生じることが一般的です。
このような管理費用については、共有権者その持分に応じて負担する必要がありますので(民法253条1項)、家賃の請求を行った場合にも、管理費用分を控除されることが通常です。
3 遺留分に関する紛争の解決まで時間を要する場合
遺留分減殺請求権を行使してから、遺留分に関する紛争の解決まで時間を要することがありえます。
この場合にも、解決時に特段の定めをしていなければ、遺留分権利者としては、遺留分減殺請求権行使時から解決時まで、共有持分に応じた賃料を請求することが可能です。
仮に、受遺者が賃料の支払を拒む場合には、遺留分権利者は、不当利得返還請求訴訟を提起して、支払を受けることが可能です。
4 価額弁償権が行使された場合
遺留分減殺請求権の行使に対し、受遺者は価額を弁償することにより、目的物を保持することが可能です(民法1041条)。
この価額弁償権が行使された場合、遺留分権利者は、遺留分減殺請求権行使時から価額弁償権行使時までの間の、賃料を請求することができるのでしょうか。
この点、遺留分の減殺請求に対して価額弁償権が行使された場合、減殺による遺贈の一部失効という法的効果が遡及的に発生しなかったことになる、すなわち、遺留分減殺の目的物は、当初から受遺者に帰属していたという扱いになる、と考えられています(最判平成4年11月16日)。
一方、遺産分割において、相続開始から遺産分割までの間の相続不動産の賃料については、遺産分割の結果に基づいた配分ではなく、法定相続分に応じた配分を行うとされています(最判平成17年9月8日)。
以上の判例を見る限り、
・価格弁償権の行使により、遺留分減殺の目的物は、当初から受遺者に帰属していたこととなるため、遺留分権利者は賃料を請求することはできない
・価格弁償権の行使により、遺留分減殺の目的物は、当初から受遺者に帰属していたこととなるが、賃料債権は遺留分の対象となる目的物とは別個であり、賃料債権自体は価格弁償権の行使によっても遺留分権利者が確定的に取得している
との2つの考え方がありうるものと思われます。
5 相続法改正後の遺留分侵害額請求権との関係
相続法改正後の遺留分侵害額請求権は、従来の遺留分減殺請求権が個別の物に対して減殺されることがあり得るのと異なり、遺留分権利者が遺留分侵害者に対して遺留分侵害額の支払を請求する権利(債権)として構成されました。
したがって、遺留分権利者が遺留分侵害額請求をしても、個別の不動産の共有持分を取得することはありませんので、上記のような家賃請求をすることはできなくなりました。
なお、遺留分侵害者が侵害額を支払わないときは、遺留分権利者は、債務名義を得たうえで、家賃を差押えるということは考えられます。