1 低額譲渡と時価との差額は考慮される
被相続人が低廉な価額で一部の相続人に不動産を譲渡していた場合、一定の要件を満たせば、時価との差額は遺留分の算定の基礎に含まれます。
一定の要件とは、
①「不相当な対価」であること
②「被相続人と受贈者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた」こと
であり、これらを満たす場合には、贈与とみなされ、目的物の価額と対価の差額が贈与として遺留分の算定の基礎に加算されることになります(民法1045条2項)。
2 不相当な対価
対価が不相当か否かは、当該有償行為の時点における取引価格を基準に取引通念によって決められることになります。
3 遺留分権利者に損害を加えることを知っていたこと
「遺留分権利者に損害を加えることを知って」いたといえるか否かについては、民法1044条1項の「遺留分権利者に損害を加えることを知って」と同義と考えられています。
したがって、東京地判昭和51年10月22日判時852号80頁が、民法1044条1項の「遺留分権利者に損害を加えることを知って」について、「贈与財産の全財産に対する割合だけではなく、贈与の時期、贈与者の年齢、健康状態、職業などから将来財産が増加する可能性が少ないことを認識してなされた贈与であるか否かによるものと解すべき」した点が参考になります。
また、損害を加えることについては、被相続人と受贈者の双方が知っている必要があります。
4 具体例
たとえば、以下のケースを考えてみます。
・被相続人には子A、子Bの2人の相続人がいた
・被相続人には時価4000万円の自宅不動産しか財産がなかった
・被相続人は死亡直前に不動産を1000万円で同居する子Aに売買していた
・被相続人は死亡時には、不動産の対価である現金1000万円のみ所持していた
このケースでは、被相続人は子Aに対し4000万円の不動産を1000万円で売買しています。
これは、「不相当な対価」であり、また、死亡直前に全財産を低額で譲渡したことから、「被相続人と受贈者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた」として、上記民法1039条に該当する可能性があります。
そして、民法1039条が適用される場合には、当該売買は贈与とみなされますので、4000万円から1000万円を差し引いた3000万円が、遺留分の算定の基礎に加算されることになります。
このケースでは、子Bの遺留分額は、
(1000万円(現金)+3000万円(贈与とみなされる分))×1/2(法定相続分)×1/2(遺留分割合)=1000万円
となります。
一方、子Bは、遺留分減殺請求権を行使しなくとも、
現金1000万円×1/2(法定相続分)=500万円
を取得することができます。
したがって、子Bの遺留分侵害額は
1000万円(遺留分額)-500万円=500万円
になります。
そして、子Bの遺留分減殺請求は、不動産に対して行うことになりますので、不動産の持分として、
500万円÷4000万円=1/8
を取得することになると考えられます。