1 遺贈の順序
(1)遺贈・相続させる旨の遺言・死因贈与・生前贈与
遺留分侵害の対象となる法律行為としては、遺贈、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言、死因贈与、生前贈与などがあります。
このうち、複数の法律行為がある場合には、①遺贈・特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言、②死因贈与、③生前贈与の順番に負担します(民法1047条1項。死因贈与については明文の規定はないが、東京高判平成12年3月8日)。
先順位のものから遺留分の負担を行い、先順位の遺留分の負担により遺留分が確保されない場合にはじめて、後順位の負担となります。
(2)同順位の法律行為が複数ある場合
同順位の法律行為が複数あるときは、遺言者の別段の意思表示がないときは、目的の価額の割合に応じて負担となります(民法1047条1項)。
(3)生前贈与について
生前贈与が複数存在するときは、相続開始時に近い贈与から負担となり、順次前の贈与に逆上ります(民法1047条1項)。
2 受贈者が無資力の場合
受贈者が無資力の場合であっても、これによる損失は、遺留分権利者の負担になります(民法1047条3項)。
したがって、受贈者の無資力により、遺留分権利者が権利を確保できない場合でも、後順位の受贈者に対して遺留分侵害額請求を行うことはできません。
3 具体例
以下のような事例を考えてみます。
・相続人は子A
・被相続人は平成26年3月に死亡。
相続財産は1000万円で、この1000万円を第三者Bに遺贈
・被相続人は平成26年2月に第三者Cに2000万円を生前贈与
・被相続人は平成26年1月に第三者Dに3000万円を生前贈与
上記の事例について、まず、遺留分侵害額を計算します。
遺留分の算定の基礎となるのは、
相続財産1000万円+第三者Cへの生前贈与2000万円+第三者Dへの生前贈与3000万円=6000万円
です。
そして、子Aの遺留分額は、
6000万円✕1/2(法定相続分)✕1/2(遺留分割合)=1500万円
であり、
遺留分侵害額も
1500万円
になります。
このとき、子Aがこの1500万円を確保するために、誰への遺贈や生前贈与を対象とすることができるかについては、以下のとおりとなります。
上記では、遺贈と生前贈与がありますので、まず第三者Bへの1000万円の遺贈が対象とされ、第三者Bは遺贈を受け取ることはできません。
次に、生前贈与が対象となりますが、生前贈与のうち、相続開始時に近いCへの生前贈与が対象となります。
Cへの生前贈与2000万円のうち500万円が対象となり、第三者Cは500万円を子Aに返還する必要があります。
一方、Cへの贈与が対象となったことにより、Aの遺留分は確保されましたので、第三者Dへの生前贈与2000万円については、対象となりません。