20年以上連れ添った配偶者への贈与は、遺留分の請求対象範囲から除外されますか

1 (20年以上連れ添った配偶者への贈与についての)税法上の優遇

 相続税法21条の6は、贈与税の配偶者控除として、婚姻期間が20年以上である夫婦間において一方の配偶者から専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利若しくは家屋又は金銭を取得した他方の配偶者について、課税価格2000万円を控除する旨を定めています。

2 (20年以上連れ添った配偶者への贈与についての)遺産分割の際の優遇

 ①民法903条4項は、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、903条1項に定める特別受益としては扱われない旨の意思を表示したものと推定すると定めています。
 これは、いわゆる持戻し免除の意思表示と推定することによって、その贈与された財産について相続財産への持ち戻しをしないこと(=遺産分割の対象財産とはならないこと)となりますので、当該贈与を受けた配偶者は、遺産分割の際に優遇されることになります。
 ②なお、この規定と、上記「1税法上の優遇」の違いは、税法上の優遇については、課税価格2000万円以下の範囲と限定されるのに対し、「2遺産分割の際の優遇」では、2000万円という制限はないこと(高額な不動産でも、その全部について対象となる)。「1税法上の優遇」については、金銭の贈与も含まれるのに、「2遺産分割の際の優遇」では、金銭の贈与は含まれないなどの差異があります。

3 遺留分侵害額請求の対象について

 上記のとおり、20年以上連れ添った配偶者への贈与は、税法上の優遇を受けたり、遺産分割の際の優遇を受けたりすることがあります。
 それでは、20年以上連れ添った配偶者への贈与は、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けることがないということにもなるのでしょうか。
 しかし、これについては、特別受益にあたる贈与について持ち戻し免除の意思表示がされた場合であっても、遺産分算定の基礎となる財産額に入ってくることは、最高裁平成24年1月26日決定(判例タイムズ1369号124頁)でも明示されています。したがいまして、婚姻期間が20年以上の夫婦間において配偶者へ贈与がなされた場合に、当然に遺留分侵害額請求の対象範囲から除外されるということはありません。他の相続人への贈与の場合と同様に、原則として相続開始より「10年以内」に「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」については、遺留分侵害額請求の対象となりますので、留意するべきです。なお、その贈与については、当事者双方が遺留分権利者に侵害を加えることを知って贈与をしたときは、相続開始より10年前の日より前にしたものについても遺産分算定の対象財産となるとされています(民法1044条1項、3項)。


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