1 所在等不明共有者の不動産の共有持分を取得・処分する制度の創設
令和5年4月1日、所在等不明共有者の不動産の共有持分を取得・処分することが可能となる改正民法が施行されました。
共有者が他の共有者を知ることができないとき・その所在を知ることができないときは、裁判所に申し立てた共有者(以下「申立共有者」)に所在等不明共有者の持分を取得させられる裁判をすることができます。(民法262条の2)
また、他の共有者が共有物件の売却等の処分を希望するときには、裁判所が申立共有者に所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与できるようになります。(民法262条の3)
2 所在等不明共有者の持分取得の裁判について
不動産が数人の共有となっている場合において、所在等が不明な共有者がいるときは、裁判所が、共有者に持分を取得させることができる制度です(民法262条の2)。
(1)要件
①不動産が数人の共有に属すること
「不動産が数人の共有に属する場合」には、通常の共有だけでなく遺産共有の場合も含まれ
ます。もっとも、遺産共有の場合、相続開始の時から10年を経過しなければ、所在等が不明な
共有者の持分取得の裁判はできません(民法262条の2第3項)。
②他の共有者を知ることができないか、その所在を知ることができないこと
「他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」には、共有者
のひとりが死亡し、相続人が明らかでない場合も含まれると考えられます。
③供託をすること
裁判所が所在等不明共有者の持分取得の裁判を行うには、供託金の供託が必要です(非訟事
件手続法87条5項・8項)。
もっとも、供託金の額も、時価相当額を基準に決定すべきであり、裁判所は、不動産鑑定士
の評価書、固定資産税評価証明書、不動産業者の査定書などをもとに供託金の額を判断すると
考えられます。
なお、供託金の額は、必ずしも共有持分の客観的な時価と一致するわけではなく、供託額が
時価相当額に充たない場合、その差額を請求することができます(民法262条の2第4項)。
(2)公告
申立てがあった場合、裁判所は、所在等不明共有者に異議の機会を与えるため、公告をしま
す(非訟事件手続法87条2項各号)。
(3)共有物分割・遺産分割との関係
所在等不明共有者の持分取得の申立てがあった不動産について、共有物分割または遺産分割
の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が異議の届出をした場合、裁判所は、所
在等不明共有者の持分取得の裁判をすることはできません(民法262条の2第2項)。
また、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産分割をすべき
場合に限ります。)、相続開始のときから10年を経過するまでは、裁判所は、所在等不明共有
者の持分取得の裁判をすることはできません(民法262条の2第3項)。
3 所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判について
不動産が数人の共有となっている場合において、所在等が不明な共有者がいるときは、裁判所が、共有者に持分を譲渡する権限を付与できる制度です(民法262条の3)。
(1)要件
①不動産が数人の共有に属すること
②他の共有者を知ることができないか、その所在を知ることができないこと
③供託をすること
(2)効果
申立てをした共有者に所在等不明共有者の持分を譲渡する権限が付与されます(民法262条
の3第1項参照)。
もっとも、申立てをした共有者が、裁判の効力が生じた後2か月以内に、その権限を行使し
ない場合、裁判は効力を失います(非訟事件手続法87条3項本文)。
裁判所は、この期間を伸長することができますが(非訟事件手続法87条3項但書)、伸長は
あくまで例外的に認められるものと思われます。
また、持分譲渡権限を付与する裁判は、所在等不明共有者以外の共有者全員が自己の持分を
譲渡することが停止条件となっています(民法262条の3第1項)。そのため、申立てをした共
有者は、所在等不明共有者の譲渡だけでなく、他の共有者の持分の譲渡も期間内に完了させる
必要があります。
(3)公告
申立てがあった場合、裁判所は、所在等不明共有者に異議の機会を与えるため、公告をしま
す(非訟事件手続法88条2項、87条2項1号・2号・4号)。
(4)共有物分割・遺産分割との関係
所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合、相続開始のときから10年を経過するまで
は、裁判所は、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判はできません(民法262条の
3第2項)。
なお、所在等不明共有者の持分取得の申立てがあった不動産について、共有物分割または遺
産分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者の以外の共有者が異議の届出をした場合、裁判
所は、所在等不明共有者の持分取得の裁判をすることはできませんが(民法262条の2第2
項)、所在等不明共有者の持分譲渡権限を付与する裁判では、そのような制限はありません。