遺産の一部分割をすることはできますか

1 遺産の一部分割とは

相続法改正前の実務においても、一定の場合には、遺産の一部分割は可能であるという考え方が一般的でしたが、民法の条文上からは、遺産の一部分割ができるかどうかについて必ずしも明確ではありませんでした。
そこで、相続法改正において、遺産の一部について分割できることを明文化したうえで、一定の場合には、家庭裁判所に対しても、遺産の一部について分割をするよう請求ができる旨定められました。

2 遺産の一部分割の内容

(1)共同相続人間の協議による一部の分割

907条1項において「共同相続人は、…いつでもその協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる」と定められました。
これは、共同相続人は遺産についての処分権限を有しますので、その処分権限に基づいて、遺産の一部についても確定的に分割することができる旨を定めたものです。

(2)家庭裁判所に対する一部分割の請求

907条2項本文は、「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求できる」旨を定めています。
これは、遺産分割の範囲についても、共同相続人に処分権限が及んでいることを確認したものといわれています。
また、907条2項ただし書きは、「ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りではない。」旨を定めています。
すなわち、家庭裁判所が一部分割をすることができるためには、①一部分割をすることに合理的な理由があり(一部分割の必要性があること)、かつ、②その一部分割によって遺産全体についての適正な分割が不可能とならないこと(一部分割の許容性があること)の要件が必要であるといわれています。
上記907条2項ただし書きは、上記①②の必要性がない場合には、家庭裁判所は一部分割をすることができないことを明らかにしたものといえます。したがって、この場合には、申立人がした遺産の一部分割の申立てを不適法なものと却下することになります。
さらには、907条3項は、「前項本文の場合において特別の事由があるときには、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる」旨をも定めています。
これは、一定期間内において上記①②の必要性が存在しないことが明確な場合などの特別な事由があるときは、家庭裁判所は、遺産の全部又は一部についての分割を禁ずることができることをも定めたものです。


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