遺産共有の財産を、遺産分割をせずに、共有物分割訴訟で分割することができるのですか。

1 はじめに

 まず、判例では、相続財産に属する共有物の持分を分割する手続きは共有物分割訴訟ではなく遺産分割とされています。
 また、遺産共有持分と通常共有持分とが併存する共有物について、①両者の共有関係を解消する手続きは、共有物分割訴訟によるものとし、②共同相続人に分割された財産については、その共有関係を遺産分割により、解消することとされています。つまり、共有物分割と遺産分割の両方を行う必要がありました。
 しかし、令和3年4月21日の民法改正によって、遺産共有持分と通常共有持分とが併存する共有物については、相続開始の時から10年を経過した場合、相続人から異議等なければ、共有物分割訴訟により、遺産共有持分の分割ができる規定が設けられました。

2 原則は遺産分割

 改正法では、まず、判例の理解を基本的に維持する趣旨で、共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について共有物分割訴訟による分割をすることができない(改正後民法258条の2第1項)という規定が設けられました。

3 共有物分割訴訟により、遺産共有持分の分割ができる場合

(1)改正後民法258条の2第2項の内容

 次に、改正法では、例外的規律として、遺産共有持分と通常共有持分とが併存する共有物について、相続開始の時から10年を経過したときは、相続財産に属する共有物の持分について共有物分割訴訟による分割をすることができるという規定が設けられました。

(2)規定が置かれた理由

 「相続開始の時から10年を経過した」ことを要件としたのは、例外規定を無制限に適用してしまうと、相続人に認められている遺産分割上の権利(具体的相続分による分割や民法906条に従って分割等を受けることができる権利)が害されてしまうためです。なお、具体的相続分については、相続開始の時から10年を経過したときに確定することになります。詳細は、「2021年の民法改正で、遺産分割は10年以内にしなければならなくなったのですか。」で説明しておりますのでご参照ください。

(3)相続人からの異議

 前記第2項の場合において、相続開始の時から10年を経過したときであっても、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について共有物分割訴訟による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない(改正後民法258条の2第2項但書)という規定が設けられました。
 そのため、共有物分割訴訟により、遺産共有持分の分割ができる場合は、相続人の異議がないことが条件になります。

(4)異議の期限

 相続人が異議の申出をする場合には、共有物分割訴訟が係属する裁判所から通知を受けた日から2か月以内に当該裁判所にしなければならないと規定されました(改正後民法258条の2第3項)。
 なお、この「通知を受けた日」とは、当該相続人が訴状の送達を受けた日になると解されます。

4 最後に

 遺産分割については、協議や調停、審判を終えないと、いつまで経っても遺産分割未了(=遺産共有)の状態のままで「遺産分割に時効はない」といわれていた問題点がありました。
 しかし、本改正によって、相続開始から10年間、遺産分割未了で放置されたままである場合、遺産分割をせずに共有物分割だけをすれば、共有が完全に解消することができることになりますので、その点でメリットがある規定といえます。


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