1 遺産分割協議の解除
いったん成立した遺産分割協議を何らかの事情により解除したいという場合に、解除することができるのでしょうか。合意解除と法定解除の場合に分けて説明します。
2 合意解除
いったん遺産分割協議が成立した後に、相続人全員の合意によって解除することは可能とされています。相続人全員の合意による解除であり、法的安定性の確保を考慮する必要性が少ないからです。最高裁も、共同相続人全員が既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは法律上当然には妨げられるものではないとしています(最判平2.9.27民集44巻6号995頁)。
なお、相続税の関係では、原則として当初の遺産分割により取得した財産を再移転したものと扱われ、贈与や譲渡とみなされて課税される扱いとなっています(相続税基本通達19の2-8「当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならない。」)。そのため、遺産分割協議を合意解除して再分割する場合には、税務面も考慮して行う必要があります。
3 法定解除
遺産分割協議において、例えば、特定の相続人から他の相続人への代償金の支払義務が定められたにもかかわらず、当該支払義務が履行されなかった場合に、債権者である相続人は債務不履行を理由に遺産分割協議を解除することができるかという問題がありますが、解除することはできないと解されています。遡及効を有する遺産分割につき解除を認めて再分割を許すことは法的安定性が著しく害されることになることがその理由とされています。最高裁も、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は協議において債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけとしています(最判平元.2.9民集43巻2号1頁)。