1 不動産登記法の改正
これまでは、登記申請は公法上の義務とはされていなかったため、登記をしないことが法律上認められていました。
そのため、土地所有者が死亡しても、相続や遺贈を原因とする登記がなされずに、そのことが、不動産登記制度からみた場合に、所有者不明土地が発生する原因のひとつになっていました。
平成30年度版土地白書に書かれた国土交通省の地籍調査では、相続による所有権移転登記がされていないものの割合が66.7%もあったとされています。
このような所有者不明土地の発生を予防する観点から、不動産登記法を改正して、これまで任意とされていた相続登記や住所等変更登記の申請を義務化する「民法等の一部を改正する法律」が令和3年4月21日に成立しました。
2 相続登記申請義務が決められました
改正された不動産登記法76条の2第1項は、「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。」と定められました。
この3年の期間については、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日」からですから、通常の場合には、被相続人が死亡したときから3年の期間内に相続登記をしなければならないことになります。
3 過料の制裁
そして、相続登記義務のある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられることになりました(164条1項)。
過料は、「概念的には筆ごとという理解になろうかと思いますが、必ずしも掛け算というものもない。」(法制審議会第16回議事録 事務局回答)とされています。
4 氏名、住所の変更登記義務
氏名、住所等の変更についても、「当該所有権の名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない」と定められました(76条の5)。
そして、その制裁は、5万円以下の過料とされています(164条2項)。
5 相続人申告登記の創設
相続登記の手続的な負担を軽減させるために、新たに、相続人申告登記制度が創設されました。
これは、所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人であることを申し出ることができ、登記官は、その申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所等を所有権の登記に付記するものです(76条の3)。
この制度は、相続登記とは異なりますので、相続登記の際の登録免許税が非課税となっています。
5 新法の施行
この改正不動産登記法の施行は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において、政令で定める日となっています。
そして、相続登記の申請義務化の規定は、令和6年4月1日から施行されることになりました。
なお、相続登記の申請については、施行日から3年間の猶予期間があります。
これからは、相続によって不動産を取得した人は、原則としてその取得の日から3年以内に相続登記をしなければならないということを認識しておくことが大切です。