1 相続法改正による「特別寄与料」制度創設(1050条)の趣旨
「特別寄与料」制度は、相続法改正に際して、相続人以外の者の貢献を考慮するために創設されたものです。
被相続人に対して療養看護その他の貢献をした者が相続財産から分配を受けることを認める制度としては、従前から「寄与分」というものがあります。
しかし、この「寄与分」は相続人に対してのみ与えられています(904条の2第1項)。
相続人以外の者(例えば、相続人の配偶者やその他の者)が被相続人の療養看護や被相続人の財産の維持・増加に貢献しても、何らかの財産の分配の請求をするには困難がありました。
すなわち、特別縁故者の制度の活用や準委任契約、事務管理、不当利得等の主張をすることは考えられますが、それらでは必ずしも権利主張のために充分であるとはいえませんでした。
そこで、新たに、相続人以外の者が被相続人の療養看護や被相続人の財産の維持・増加等につき貢献した場合等に配慮するものとして、「特別寄与料」制度が創設されました。
2 「特別寄与料」(1050条)の内容
(1)「特別寄与料」支払請求後の成立要件
① 請求権者
請求権者の範囲は、被相続人の親族に限られています(1050条1項)。
このように請求権者を限定したのは、相続をめぐる紛争の長期化等を避けるためであるといわれています。
② 寄与行為
「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務を提供したこと」が要件とされています(1050条1項)。
なお、無償であるかどうかについては、労務を提供した者が被相続人から金銭等の何らかの利益を得ていた場合に、その得ていた利益が提供した労務の対価といえるかどうかによって判断されることとなります。
したがって、労務を提供した者が、被相続人から受けていた利益が少ない場合や、療養看護する前から労務を提供する者の生活費を被相続人から負担してもらっていて、療養看護を開始後も従前と同様に生活費を負担してもらっていたような場合には、労務提供の対価としては受け取っていない(無償性がある)と評価してよいと考えられています。
③ 特別の寄与
「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」(1050条1項)ことが要件とされています。
この「特別の寄与」については、「寄与分」の認定判断に際して、「通常の寄与」との対比として判断されるのと異なり、「特別寄与料」については、実質的公平の理念及び被相続人の推定的意思の尊重という制度の趣旨に照らして、労務の提供をした者の貢献に報いるのが相当といえるような程度の顕著な貢献があったかどうかという観点から判断すべきであると解されています。
(2)特別寄与料の額
特別寄与料の額については、まずは、当事者間の協議により決められることになりますが、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することができるものとされています(1050条2項)。
その場合、家庭裁判所は、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定めることができることとされています(1050条3項)。
第三者が療養看護を行った場合の日当額に、療養看護の日数を乗じ、さらに一定の裁量割合を乗じるなどのいわゆる療養看護型の寄与分の場合の算定方法等も参考となり得るものと考えられます。
なお、「特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。」(1050条4項)とされています。
また、同条項のいう「遺贈の価額」とは「特定遺贈の価額」のことをいい、「特定寄与料」が定められた制度趣旨からして、包括遺贈や特定財産承継遺言の場合は含まないと解されています。
(3)権利行使の期間制限
相続関連紛争の長期化を防ぎ、早期解決することを促進する観点から、特別寄与料の審判について比較的短期間のみの権利行使を認めるという取扱いになっています。
すなわち、1050条2項ただし書において「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したとき」には特別寄与者からの特別寄与料を定める審判の申立ては認められないこととされています。
(4)相続人が複数いる場合
「相続人が複数ある場合は、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。」(1050条5項)とされています。
したがって、特別寄与者は、各相続人に対して法定相続分又は指定相続分を乗じた額の特別寄与料を請求することになります。
特別寄与料の全額を特定の相続人に対してのみ請求するということはできません。
なお特別寄与者が権利行使する際には、相続人全員を同時に相手方として請求しなければならないわけではなく、相手方を選択して請求することも可能とされています。
ただし各人ごとの請求金額は、前述のとおり特別寄与料(の全額)につき法定相続分又は指定相続分を乗じた額の範囲内に限定されますので、特別寄与者が相続人に対し、特別寄与料の全額の支払を請求する場合には、相続人全員を相手方として請求していくのが得策といえます。
3 特別の寄与に関する処分の審判の手続
(1)手続
特別寄与料の額について当事者間において協議が調わないとき、又は、協議することができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます(1050条2項本文)。
寄与分の場合とは異なり、遺産分割事件が家庭裁判所に係属していないときでも、特別寄与者は、家庭裁判所に特別寄与料を定めることを請求することができます(1050条2項ただし書による期間制限がありますので、相続人ら間の遺産分割事件が係属していなくても、特別寄与料を定めてもらう必要があるといえます)。
(2)管轄
相続が開始した地を管轄する家庭裁判所が特別寄与料を定める審判事件の管轄裁判所となります(家事事件手続法216条の2第1項)
「寄与分」の場合には、遺産分割審判事件との併合強制の扱いとなります(家事事件手続法192条、245条3項)が、特別寄与料の審判については、遺産分割事件との併合強制とはなりません。
特別寄与料の場合は、必ずしも遺産分割の前提問題とはならないと考えられているからです。
(3)保全処分
特別寄与料を定める審判の申立てがあったときに、強制執行を保全し、又は申立人の急迫の危険を防止するために必要があるときは、特別寄与に関する処分の審判を本案とする仮差押え、仮処分等の保全処分を命ずることがあります。
特別寄与料の支払義務を負う相続人において財産処分をするおそれがある場合や、特別寄与者が生活に困っており、生命・身体に危険が生じるなどの事由がある場合には、保全処分を活用することも考えられます。