1 相続の放棄とは
相続の放棄とは、自己のために開始した不確定な相続の効果を確定的に消滅させる意思表示です。
通常、被相続人の財産より借金などの債務が多い場合に、相続の放棄をすることが多いのですが、財産が多い場合であっても、放棄することは自由ですし、その動機は問いません。
2 相続の放棄の方法
相続を放棄するには、家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。
相続放棄の期間は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内ですので、注意が必要です。
しかし、被相続人が死亡してから3ヶ月経ってしまった場合でも、判例によって相続放棄できる場合がかなりありますので、あきらめないで相談してください。
3 相続の単純承認をしたとみなされる場合
相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合には、その相続人は、相続を単純承認したものとみなされ、相続の放棄はできなくなります。
そこで、相続人(受取人)が、被相続人の契約した生命保険金を受け取った場合に、その生命保険金の受け取りは、相続財産の処分とみなされるかが問題となります。
4 死亡保険金を受け取っても、相続の放棄はできる
判例は、死亡保険金の受領は、受取人が生命保険契約に基づく固有の権利を行使したもので、相続財産の一部の処分ではないので、相続放棄はできると解しています(福岡高裁宮崎支部平成10年12月22日決定ほか)。
ですから、相続を放棄しても、受取人に指定された相続人が生命保険金を受けとることはできることになります。
また、受取人が法定相続人となっており、その法定相続人の全部または一部が相続放棄をした場合でも、その放棄をした法定相続人は、死亡保険金を受け取ることができます。
ただし、相続放棄をした相続人には、相続税における生命保険の非課税枠は適用されません。
5 死亡退職金を受け取っても、相続の放棄はできる
死亡退職金は、通常被相続人が勤務していた会社の規定により、遺族などに支払われるものです。
死亡退職金の受給権者は、通常その会社の規則で決められています。
例えば、第1順位が配偶者、第2順位が子、第3順位が親などと決められており、これは、法定相続人とは異なる場合もあります。
このように、死亡退職金は、被相続人が勤務していた会社の規定に基づいて、その受給権者が受領するもので、相続財産ではないので、これを受領しても、相続放棄はできると考えられます。