1 相続回復請求権の意義(民法884条)
相続回復請求権とは、相続開始後に相続人が持つ相続権を侵害されたときにその侵害に対する
救済として相続人に認められた権利であるといわれています。
たとえば、相続人でない者が相続財産を占有しているときに真の相続人が一定期間内に権利を
行使することで相続人としての地位を回復できることなどがそれに当たります。
民法884条は、「相続回復の請求権は、相続人又はその法定相続人が相続権を侵害された事
実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を
経過したときも同様とする」と定めています。相続回復請求権については5年の短期消滅時効及
び20年の長期消滅時効(なお、20年については、消滅時効ではなく除斥期間とする学説も有
力です)があることに注意を要します。
2 民法884条の消滅時効の援用・・・
最高裁大法廷昭和53年12月20日判決
(1) 相続開始後、相続財産を相続人と称して占有管理使用している者(表見相続人)(共同相続
人のうちの1人である場合も含む)がいるときに、真の相続人が、5年以内に相続回復請求権
を行使しないと、相続回復請求権は消滅時効にかかってしまい、5年経過後には相続回復請求
権を行使できないのでしょうか。
(2) しかし、相続回復請求権が容易に消滅時効にかかってしまうことになると、真の相続人の権
利が実現できなくなってしまい不合理といえます。
(3) この点につき、最高裁大法廷昭53.12.20判決は、「表見相続人(非相続人の場合のみならず
共同相続人の1人である場合も含む)として、請求の相手方となり、かつ、884条の短期消滅
時効の恩恵を受けるためには、この者に相続権侵害につき善意であって合理的な事由が認めら
れなければならない」と判示いたしました。この「相続権侵害につき善意であって合理的な事
由のあること」とは、「他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったこと
に合理的な事由のあること」すなわち、「善意無過失」のことを言うと解されています。そし
て、その「善意無過失」であることの立証責任は、消滅時効の援用をする者(=時効消滅を主
張する者)の側にあるとされています(最判平11.7.19)。
(4) したがって、上記最高裁判例により、相続回復請求権の消滅時効を主張するためのハードル
は極めて高いものとされております。
3 相続回復請求権制度(民法884条)の問題点
(1) 上記のとおり、相続回復請求権については、消滅時効の定め(民法884条)があります
が、その消滅時効を援用することには大きな困難があります。すなわち、共同相続人の1人に
すぎない者が、善意・無過失で、単独唯一の相続人として相続財産を占有管理使用していると
いうことは事実上無いに等しく、民法884条の相続回復請求権の行使制限が認められると
いうことはほとんどありません。実際にも相続回復請求権が消滅時効により否定されたという
ケースはないといえます。
(2) したがって、学説上は、民法884条は無用の規定であるという考え方や民法884条廃止
論も有力に唱えられています。