1 はじめに
投資信託受益権につき、相続開始後に元本償還金や収益分配金が生じることがあります。そして、投資信託受益権の販売会社の被相続人名義の口座にそれらが入金されて、預り金となっていることがあります。
その場合に、共同相続人の1人は単独で自己の相続分に応じた金額の支払を販売会社に対し、請求することができるか、あるいは、遺産分割の対象となるかが問題となります。
2 重要な最高裁判例・・・最判平成26年12月12日
これについては重要な最高裁判例(最判平成26.12.12)があります。
この事件において、最高裁は、「元本償還金又は収益分配金の交付を受ける権利は、上記受益権の内容を構成するものであるから、共同相続された上記受益権につき相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し、それが預り金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合にも、上記預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく、共同相続人の1人は、上記販売会社に対し、自己の相続分に担当する金員の支払を請求することができないというべきである」と判示しました。
3 当方のコメント
(1) 上記最高裁判決は、投資信託受益権についてはそもそもその権利の内容として元本償還金
又は収益分配金の交付を受ける権利が含まれて、構成されているという考え方を採っている
ものと言えます。相続発生時に被相続人が持っていた財産(遺産である)投資信託受益権の中
には、元本償還金、収益分配金も含まれているので、実際上、相続開始後に証券会社の被相
続人の口座に預り金として計上されたとしても被相続人の遺産であることに変りはなく、遺
産分割の対象になるとするものです。
(2) なお、共同相続にかかる不動産から生ずる賃料債権については各共同相続人がその相続分
に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は後にされた遺産分割の影響を受け
ないとするのが最高裁の確立した判例(最判H17.9.8)となっています。この判決は、「元
物」である不動産は遺産であるが、相続後に生じた不動産の「果実」である賃料債権は、別
個の財産として、遺産ではない扱いとなるものと解されています。
(3) 上記両判例の対比からいいますと、投資信託の元本償還金、収益分配金は、投資信託受益
権を「元物」とする「果実」に当たるものではない、いわば、「元物」それ自体の内容に含
まれているものと考えられます。
(4) 上述のとおり、投資信託受益権の元本償還金及び収益分配金は遺産分割の対象となります
が、遺産分割協議ないし審判において、原則として投資信託受益権の帰属が決まれば、元本
償還金及び収益分配金もそれに包括されるものと考えます。
なお、実際上は、「投資信託受益権及びその元本償還金、収益分配金を含む一切の権利」
などと具体的に記載しておいた方が、相続人ら間の争いを防いだり、証券会社との手続をス
ムーズに進めるのに、より明確であるといえます。