1 香典は遺産ではない
香典は、死者への弔意などのために、葬儀主宰者(喪主)や遺族になされる贈与ですので、遺産とは言えません(東京家審昭44.5.10)。
そこで、遺産分割調停・審判において、遺産分割の対象にはなりません。
しかしながら、実際には、遺産分割調停において、葬儀費用から香典を控除し、葬儀費用を相続財産から控除するという形で、取り扱われることも多いと言えます。
この場合、香典を考慮して遺産分割調停を成立させることは可能です。
2 香典の取得者
香典が実際に問題になりうるのは、葬儀費用より香典の方が多いという場合です。
香典が葬儀費用に充てられることは、香典の趣旨からして当然の話であり、葬儀費用とは別に、香典を香典取得者に請求する、ということは通常はできないものと考えられます。
香典に剰余金が生じた場合、これを葬儀主宰者が取得すると解する見解と、相続人が法定相続分に従って取得するという見解があります。
3 香典の請求
香典を相続人が取得するという見解をとった場合には、葬儀費用より香典の方が多く、剰余金が生じたときには、香典を受け取っていない相続人は、香典を取得した相続人に対し、香典の請求をすることができると考えられます。
4 香典の記録
葬儀費用に関して、相続人間でトラブルになることは多いといえます。
どのような支出をしたかが分からないとか、分不相応な葬儀を執り行ったなどの理由でトラブルになるケースは多々あります。
そして、このトラブルの中で、香典も話題にのぼることがあります。
香典が少なすぎるとか(香典を着服しているのではないか)、香典返しが高すぎる、などといったことです。
このようなトラブルを避けるためにも、誰からいくらの香典をもらい、どのような香典返しを行ったかについては、詳細な記録を残しておいたほうがいいと言えます。
とりわけ、特定の相続人が事情により葬儀に出席できないなどという場合には、なおさらその必要性が高いと言えます。