1 孫への贈与は原則特別受益にならない
特別受益者となるのは、特別受益を受けた「共同相続人」です。
そして、被相続人から見て、子供が存命の場合、孫は相続人ではないため、特別受益者とはなりえません。
したがって、原則として、孫への贈与は原則特別受益にはなりません。
これは、孫に限らず、相続人の配偶者に対する贈与などについても同様であり、原則として特別受益にはならないと考えられています。
2 実質的には相続人に対する贈与の場合
原則は以上のとおりですが、真実は相続人に対する贈与であるのに、名義のみ子や配偶者としたというような場合には、特別受益に該当すると考えられています。
孫への贈与で多いのは、学資等です。
この点については、相続人が扶養義務を怠ったことに起因する場合には、特別受益に該当すると考えられています。
教育資金贈与信託と特別受益については、「教育資金贈与信託は特別受益になるでしょうか」をご覧ください。
相続人の配偶者への贈与については、相続人の円満な婚姻生活等を企図して贈与がなされた場合には、特別受益に該当する場合もあるものと考えられます。
逆に、相続人の配偶者が、被相続人の家業に貢献したために贈与を行ったという場合には、特別受益には当たらないと考えられています。
3 審判例
神戸家尼崎支審昭和47年12月28日では、母親が子を残して家出したことがあり、母親の父親である被相続人が孫の大学の学費及び生活費を援助したという事案において、相続人の子が被相続人から生計の資本として贈与を受けた場合において、そのことがその相続人が子に対する扶養義務を怠つたことに基因しているときは、実質的にはその相続人が被相続人から贈与を受けたのと変わらないとして、特別受益を認めています。
一方、東京家審平成21年1月30日では、孫が3才から高校卒業までの間、親と同居せず、被相続員と同居していて、この間の養育費用を負担していたという事案において、被相続人に、孫の養育費用の負担をすることは相続の際に相手方の特別受益として考慮する意思はなかったとして、特別受益を認めませんでした。
4 相続人が先に死亡した場合
孫が生前贈与を受けたところ、その後父親である相続人が死亡し、その後祖父である被相続人が死亡するということがありえます。
この場合、生前贈与を受けた時点では、相続人ではありませんが、父親である相続人が死亡した段階で、孫は相続人になります。
このような場合に、孫の受けた生前贈与は、特別受益にはならないと考えられています。
一方、父親である相続人が死亡後、孫が生前贈与を受けた場合には、生前贈与を受けた時点で相続人であることから、生前贈与が特別受益に該当することはもちろんです。