1 特別受益とは
遺産分割の調停や審判では、一部の相続人から特別受益の主張がされることが少なくありません。
共同相続人の中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときに、その遺贈や贈与を特別受益といいます。
特別受益があった場合には、その金額を加えたものを相続財産とみなし(「みなし相続財産」といいます)、これを基礎に各相続人の相続分を算定し(これを「持戻し」といいます)、特別受益を受けた人は、一応の相続分から特別受益分を引いて、具体的相続分とします。
一応の相続分が特別受益分より少ない場合には、具体的相続分は零となり、特別受益分を返還する必要はありません。
この特別受益の制度は、共同相続人間の実質的な平等を図るために設けられているのです。
2 生計の資本としての贈与
特別受益に該当するものとして、「生計の資本としての贈与」がありますが、どういった意味でしょうか。
生計の資本としての贈与とは、生計の基礎として役立つような財産上の給付をいいます。
居住用の不動産を贈与したり、不動産取得のための金銭の贈与などが典型的ですが、これに限られません。
生計の資本であるかどうかは、贈与金額や贈与の趣旨などから判断されます。
特別受益になるかどうかの区別基準としては、「親族間の扶養的金銭援助を超えるもの」かどうかを用いることが通常です。
したがって、相続分の前渡しと認められる程度に高額の金員の贈与は、原則として特別受益になると考えられています。
ただし、高額ではあっても、身体的理由等により稼働できない子への援助などは、特別受益にならない場合もあります。
なお、一度に多額の金員を贈与した場合には、特別受益であるかの判断が容易なことが多いですが、多額とまではいえない金員の贈与を複数回行い、結果として贈与される金員が多額になることがありえます。
このような場合の特別受益をどのように考えるかですが、審判例として、ひと月に10万円を超える送金の部分のみを特別受益と認めた審判例があります(東京家審平成21年1月30日)。