1 「相続人に対し特定財産を相続させる」旨の遺言とは
遺言の中には、「長男には甲土地を、二男には乙土地を相続させる。」というように、特定の遺産を特定の相続人に相続させるという内容が含まれる場合があります。相続法改正では、このような特定の遺産を特定の相続人に相続させる遺言を「特定財産承継遺言」とよぶことになりました(民法1014条2項)。
なお、遺言の内容としては、(特定財産承継遺言とは異なり)「長男と次男に全遺産を2分の1ずつ相続させる」など相続分の指定のみをして、具体的な特定財産の帰属については定めない場合もあります。
2 「相続人に対し特定財産を相続させる」旨の遺言の法的効果
「相続人に対して特定財産を相続させる」旨の遺言が作成されたとき、この遺言は、遺産分割方法の指定をしたものか、遺贈なのか等について従来、判例や学説の見解が分かれていました。
しかしながら、最高裁判所は平成3年4月19日の判決で、権利移転効を伴う遺産分割方法の指定と解する判断を示し、従前の議論に一応の決着がつきました。
この判決により、次のことが導かれます。
① 相続人に対し特定財産を相続させる遺言があれば、遺産分割の協議や家庭裁判所の審判を経ないで、指定された相続人がその特定財産を確定的に取得する。
② 相続人に対し特定財産を相続させる遺言については、指定された相続人が単独で相続登記を申請すべきものとされる。
なお、上記判例により、従来は、遺言執行者は登記申請できないと考えられていましたが、相続法改正により、遺言執行者は、特定財産承継遺言があったときは、当該相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができることとされているので、遺言執行者による登記申請が可能となりました。
3 「相続人に対して特定財産を相続させる」旨の遺言のメリット
「相続人に対し特定財産を相続させる」旨の遺言を作成した場合、「遺贈する」旨の遺言の場合と比較して次のようなメリットがあります。
① 遺産が不動産の場合、特定財産を相続すると指定された相続人又は(遺言執行者の定めがあるときは)遺言執行者が単独で相続登記できる。なお、受遺者と遺言執行者が同一人物であるときは、単独での「遺贈」登記は可能となる。
② 登記の際の登録免許税が安くすむ(「相続」だと評価額の0.4%、「遺贈」だと2%。もっとも、相続人への遺贈については、相続と同じ0.4% とされている)
③ 遺産が農地の場合、「遺贈」と異なり農地法3条所定の許可がいらない。なお、「包括遺贈」では農地法の許可は不要ですし、「特定遺贈」でも相続人に対する「特定遺贈」の場合には農地法の許可は不要とされます。
④ 賃借権を相続する場合、賃貸人(所有者)の承諾がいらない。なお、「包括遺贈」の場合には賃借人の承諾は不要とされる。
4 受益相続人が先に死亡した場合
「相続人に対し特定財産を相続させる」旨の遺言で、特定の不動産を受け取るとされた相続人が、被相続人より先に死亡してしまっている場合がありえます。
このような場合、「相続人に対し特定財産を相続させる」旨の遺言は、「特段の事情がある場合には」代襲相続が認められますが、それ以外の場合には、当該遺言は無効になります(最三判平成23年2月22日)。
相続人に対し特定財産を相続させる旨の遺言が無効となることを避けるためには、あらかじめ、相続人が先に死亡していた場合には、相続人の子に相続させる、など、予備的遺言を記載しておくことが考えられます。