1 危急時遺言とは
危急時遺言とは、遺言者に死亡の危急が迫り署名押印ができない状態の場合に口頭で遺言を残し、証人が代わりに書面化する遺言の方式で、特別方式の遺言の1つです。
危急時遺言には、病気などで危急状態の人に認められる一般危急時遺言と、船が遭難した場合に認められる難船危急時遺言があります。
2 一般危急時遺言
一般危急時遺言とは、疾病その他で死亡の危急に迫っている場合に認められる遺言方式で、一般臨終遺言、死亡危急者遺言ともいわれます。遺言者が氏名すら自書することが困難であるときに、遺言者から内容を聞いた証人が遺言書を作成することが認められています。
一般危急時遺言の要件は、次のとおりです。
①証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授する。
②口授(口がきけない人の場合は通訳人の通訳)を受けた証人がそれを筆記する。
③口授を受けた証人が筆記した内容を、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、または閲覧する。
④各証人が筆記の正確なことを承認した後、遺言書に署名し印を押す。
一般危急時遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求して、遺言の確認を得なければ効力を生じません。家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができませんので、遺言を作成したときの様子をビデオカメラなどで撮影しておくとよいです。
遺言者が普通方式によって遺言をすることができるようになった時から6ヶ月間生存するときは、一般危急時遺言は無効となります。この場合に、遺言者が遺言を残したいというときは、新たに自筆証書遺言や公正証書遺言といった普通方式の遺言を作成する必要があります。
3 難船危急時遺言
難船危急時遺言とは、船舶の遭難という緊急事態を想定して定められた遺言方式で、船舶遭難者遺言ともいわれます。飛行機に乗っていて遭難した場合、難船危急時遺言の規定が準用されると解されています。
難船危急時遺言の要件は、次のとおりです。難船危急時遺言は、一般危急時遺言よりもさらに緊急の状況であるといえるため、一般危急時遺言よりも要件が緩和されています。
①証人2人以上の前で、口頭(口がきけない人の場合は通訳人の通訳)で遺言をする。
②証人が遺言の趣旨を筆記して、署名印を押す。なお、遭難が止んだ後、証人が記憶に従って遺言の趣旨を筆記し、これに署名・押印しても差し支えない。
難船危急時遺言は、証人の1人または利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求して確認を得なければ効力を生じません。
遺言者が普通方式によって遺言をすることができるようになったときから6ヶ月間生存するときは、難船危急時遺言は無効となります。遺言者が遺言を残したいというときに新たに普通方式の遺言を作成する必要があることは、一般危急時遺言と同じです。