1 遺言の撤回方法
遺言は、遺言者の生存中であれば、いつでも遺言を撤回することができます(民法1022条)。
ただし、遺言の撤回は、遺言の方式にしたがって行う必要があります(民法1022条)。
なお、遺言書を故意に破棄した場合にも遺言を撤回したものとみなされますので(民法1024条)、自筆証書遺言の全部を撤回する場合などには、遺言を破棄してしまうことが手っ取り早い方法ともいえます。
2 遺言の撤回とみなされる場合
また、上記以外にも、遺言が撤回されたものとみなされる場合として、以下の場合があります。
①後の遺言と抵触する場合
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、前の遺言の抵触部分は撤回されたものとみなされます(民法1023条1項)。
たとえば、前の遺言で、不動産を子の1人であるAに相続させると書いていたのに、後の遺言で、不動産を別の子であるBに相続させると書いた場合、Aに相続させると書かれた部分は撤回されたものとみなされます。
なお、抵触部分についてのみ撤回されたものとみなされますので、前の遺言のうち、後の遺言と抵触していない部分は、依然として効力を有することになります。
②遺言後の法律行為と抵触する場合
遺言が、遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合も、抵触する部分は撤回されたものとみなされます(民法1023条2項)。
たとえば、遺言で、不動産を子に相続させると書いていたのに、その後被相続人が不動産を第三者に譲渡してしまった場合、不動産を子に相続させると書かれた部分は撤回されたものとみなされます。
なお、老後の面倒を見てもらうために養子縁組をし、養子に対して自分の財産を譲るという遺言を作成したが、その後関係が悪化して協議離縁をしたという場合に、協議離縁をもって遺言が撤回されたかが争われた事案において、判例では、遺言が撤回されたものとみなされると判断されています(最判昭和56年11月13日)。
③故意に目的物を破棄した場合
遺言者が、故意に遺贈目的物を破棄した場合も、破棄した目的物について、遺贈は撤回されたものとみなされます(民法1024条)。
たとえば、遺言で、絵画を遺贈すると書いていたのに、その後被相続人が故意に絵画を破棄した場合、絵画を遺贈すると書かれた部分は撤回されたものとみなされます。
3 遺言の再撤回
前の遺言が後の遺言により撤回され、その後、後の遺言も撤回されたという場合でも、原則として、前の遺言が復活することはありません(民法1025条)。
ただし、後の遺言を撤回する際に、遺言者が前の遺言の復活を希望するものであることが明らかな場合には、前の遺言の効力が復活します(最判平成9年11月13日)。
4 遺言の作り直し
実際の遺言の撤回で多いのは、遺言の作り直しの場合です。
遺言を作成した後、時間の経過とともに財産や人的関係の状況が変化して、内容を作り直したくなることはあります。
そのような場合には、遺言書の全部または一部を撤回したうえ、書き直すことになります(民法1022条)。
遺言書が複数ある場合は、日付の新しいものが有効になります。
古い遺言書と新しい遺言書の内容が矛盾している場合は、その部分についてのみ新しいものが有効です(民法1023条1項)。
公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもできます。
もっとも、複数の遺言書がある場合、一部が発見されない場合があるなど、後々トラブルになりかねません。
自筆証書遺言であれば、古いものは破棄し、すべて新しく書き直す方が望ましいといえます。