1 遺言能力とは
遺言能力とは、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足りる意思能力をいいます。
遺言者に遺言能力がなければ、その者が作成した遺言は有効とは認められません。また、遺言能力は、遺言の作成時に存在しなければなりません(民法963条)。
自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、遺言能力の有無が争われて裁判になることがあります。その多くは、高齢者、特に認知症高齢者の遺言に関するケースです。
2 遺言能力の有無の判断要素について
遺言能力の有無は、①精神上の障害の存否・内容・程度、②年齢、③遺言前後の言動や状況、④遺言作成に至る経緯(遺言の動機・理由)、⑤遺言の内容、⑥相続人又は受遺者との人的関係、などが考慮されて判断されます。
①精神上の障害の存否・内容・程度
認知症が存在するというだけでは、遺言能力は否定されません。認知症の内容・程度がさらに検討され、遺言能力の有無の判断がなされます。
精神上の障害の存否・内容・程度は、精神鑑定の結果や主治医等の診断、遺言時・遺言前後の症状・言動に基づいて判断されます。
②年齢
通常、加齢による老化現象として記憶力や判断力の低下がみられます。また、認知症を発症しやすくなります。一般的には、高齢になればなるほど能力が低下していきますが、高齢であることのみで(例えば、90歳を超えているからといって)、当然に遺言能力が否定されるわけではありません。
③遺言前後の言動や状況
退院直後に遺言を作成したという場合、入院中や退院時の言動、往診した医師への対応等から、遺言能力の有無が判断されることがあります。
④遺言作成に至る経緯(遺言の動機・理由)
遺言を作成する動機・理由について、遺言内容とも照らして検討され、遺言の内容と整合しているか、合理性があるかどうかが判断されます。
⑤遺言の内容
遺言の内容が、遺言者の動機・理由に照らして自然、合理的なものかどうかが判断されます。
また、遺言内容が簡明、単純であると、多少遺言者の判断力が低下していたとしても遺言能力があると判断されやすくなります。他方、遺言内容それ自体が複雑なものですと(例えば、遺産が高額で、多様な財産を複数の推定相続人に分けて相続させることを内容とする遺言など)、その意味内容を的確に認識することは困難ですので、遺言能力はないと判断されやすくなります。
⑥相続人又は受遺者との人的関係
遺言者と以前から深く付き合いがあった相続人又は受遺者であれば、多額の遺産を取得させる動機があるといえますので、遺言能力があると判断されやすくなります。他方、ほとんど交流もなく関係も薄いという場合には、多額の遺産を取得させる動機がないとして、遺言能力はないと判断されやすくなります。