1 相続人全員の同意がある場合
遺言執行者がいない場合、相続人全員の同意があれば遺言と異なる内容の遺産分割を行うことができます。
それでは、遺言執行者がいる場合も、遺言と異なる内容の遺産分割を行うことができるでしょうか。
まず、相続人全員の同意があっても、受遺者の同意がない場合には、遺言と異なる内容の遺産分割を行うことはできません。
受遺者の利益を侵害することになるため、このような遺産分割協議を行っても無効と考えられます。
なお、相続人が受遺者に無断で遺産分割協議を行ったうえ、受遺者に対する移転登記の前に、当該遺産分割協議に基づいた移転登記を行うことは可能と思われますが、当該登記は無効であり、後に遺言執行者により抹消登記されます。
2 相続人全員・受遺者・遺言執行者の同意がある場合
次に、相続人全員に加え、受遺者と遺言執行者の同意がある場合には、遺言と異なる内容の遺産分割を行うことができます。
この場合、遺言執行者が遺言と異なる内容の遺産分割に同意することは、遺言の内容を実現すべき遺言執行者としての義務に抵触するとも考えられますが、相続人全員や受遺者の同意がある場合、通常は免責されると考えられます。
3 遺言執行者の同意がない場合
それでは、相続人全員と受遺者の同意はあるものの、遺言執行者の同意がない場合はどうでしょうか。
この場合については、見解が分かれています。
遺言執行者は、遺言内容の実現に努めるべきであり、遺言内容の実現を妨げるときは、これを排除するのが任務であるとして、遺言執行者の同意がない遺言と異なる内容の遺産分割を無効であると考える説と、
遺言によって相続人や受遺者が取得した権利を相続人全員と受遺者との合意により事後的に変動させたと考えて、遺言執行者の同意がない遺言と異なる内容の遺産分割を有効であると考える説があります。
以上のように、見解が分かれていることからすれば、実務上は、遺言執行者の同意を得ておくべきでしょう。
なお、遺言執行者としては、相続人と受遺者による合意が、遺言の趣旨に反しないものであれば、同意をしたとしても、遺言執行者の義務に反したとはいえないでしょう。
なお、類似の問題として、遺言の解釈が一義的ではない場合などに、遺言執行者が、遺言の解釈などについて、遺言執行者が相続人や受遺者の同意を得ておき、当該同意内容に基づき遺言執行を行う場合があります。
そして、このような同意も有効と考えられております。