弁護士
本橋 光一郎
国債、投資信託、株式は、不動産とともに重要な財産であって、遺産分割の対象となる財産であることは当然のことと思われるかもしれません。
しかし、法律的には、そう単純には言えないことなのです。
というのは、「金銭その他の可分債権」は、相続人が数人いるときは、法律上当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて権利を承継するとされています(最高裁判決S29.4.8、民集8・4・819)。
その「金銭その他の可分債権」に当たるとすると、遺産分割が不要となり、当然に相続人各自が、分割債権として権利を保有することになります。
通常の預貯金(ただし、定額郵便貯金については、「不可分債権」であるとするのが判例です(最高裁判決H22.10.8))などは、「金銭その他の可分債権」として、遺産分割協議や遺産分割審判を要せずして、原則として、各自が権利行使ができることとなります。
なお、共同相続人らが、とくに合意している場合には、(各自が権利行使せずに)遺産分割の対象として取扱うことも可能とするのが、家裁の実務であります。
そこで、国債、投資信託、株式は、預貯金と同様に「金銭その他の可分債権」として、遺産分割が不要で、相続人各自が分割債権として権利行使できるかどうかが大きな問題となります。
投資信託について従来の下級審の判断は次のとおり分かれていました。
①大阪地裁平成18年7月21日判決
「給付を分割することについての障害が本件取引約款、本件信託約款において除去されているものとして、当該投資信託の受益証券上の権利は可分債権であると解するのが相当である。」
②福岡高裁平成22年2月17日判決
「日興MRF及びピムコには、単に解約請求権、買戻請求権にとどまらず、議決権、分配金請求権等の権利を含んでいることを無視することはできず、性質上明らかに不可分債権であって単純な金銭債権ではないから、分割単独債権として取得するということはできない。」
上記のとおり、投資信託について下級審の判断は分かれており、国債について明確に判断をした最高裁判例は、なかったところ、最近、重要な最高裁判決(平成26年2月25日)が出されました。
判決全文は以下に掲載されています。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/978/083978_hanrei.pdf
最高裁判決は、次のとおり判示いたしました。
(1)本件投資信託受益権には、その内容として、償還金請求権及び収益分配請求権という金銭支払請求権のほか、信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており、可分給付を目的とする権利ではないものが含まれている。このような権利の内容及び性質に照らせば、
(2)個人向け国債は、法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり、このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば、共同相続された個人向け国債は、相続開始と同時に法定相続分に応じて分割されることはないというべきである。
(3)株式は、株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し、株主は、株主たる地位に基づいて、剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号)、残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と、株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって(最高裁昭和45年7月15日大法廷判決)、このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された株式は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁判決昭和45年1月22日)。
したがいまして、最近の重要な最高裁判決(平成26年2月25日)により、国債、投資信託、株式は、通常の預貯金などとは異なり、「金銭その他の可分債権」に該当しないので、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものではなく、遺産分割協議や遺産分割審判によって、その帰属、配分等を決定するべき遺産となります。
なお、平成26年2月25日の最高裁判決の説示は、委託者指図型投資信託という類型の投資信託についてのものでしたが、最高裁の「性質上、不可分債権となる」という考え方は、その他の類型の投資信託についても、おおむね当てはまるものと考えられます。