特定財産を除く遺産についてなされた遺贈も包括遺贈となり得るか【東京地判平成10年6月26日】

弁護士

本橋 光一郎

  • 1 はじめに

    遺贈は、包括遺贈と特定遺贈の二つに大別されます。
    そして、包括遺贈の場合は、遺贈者の権利及び債務を一体として承継することになりますし、特定遺贈の場合は、遺贈者の特定財産を承継するのみで、遺贈者の債務を引き継ぐことはないという特徴があります。
    包括受遺者は、遺贈者の権利及び債務を引き継ぐことになりますので、遺贈者がみなし譲渡所得税の支払債務を負担する場合には、その債務も承継することになります。

    東京地判平成10年6月26日では、
    ・特定財産を除く遺産についてなされた遺贈についても包括遺贈となり得る。
    ・法人格なき社団に対する遺贈につき、遺贈者にみなし譲渡所得が発生する場合は、当該法人格なき社団が包括受遺者として遺贈者の譲渡所得税支払債務を承継する。
    と判示しました。

  • 2 東京地判平成10年6月26日

    (1)事案

    被相続人乙は、著名人物(故人)甲の妻であり、乙の法定相続人は妹(丙)と亡兄の子らでした。
    乙は、遺産のうち不動産の一部(丙建物の敷地と道路)を丙に遺贈し、その余の財産すべてを法人格なき社団Xに遺贈したという事案であります。Xが特定受遺者なのか包括受遺者なのかが争点となりました。

    (2)判旨

    東京地裁は、
    「『特定財産を除く相続財産(全部)』という形で範囲を示された財産の遺贈であっても、それが積極、消極財産を包括して承継させる趣旨のものであるときは、相続分に対応すべき割合が明示されていないとしても、包括遺贈に該当するものと解するのが相当である」
    としたうえで、本件事案においては、乙からXへの遺贈について、丙が取得する土地以外の相続財産全部を包括してXに遺贈する趣旨でなされたものとして、Xについて包括受遺者と認めました。又、本件事案において、遺贈者乙からXに対する遺贈につき、遺贈者乙はみなし譲渡所得税支払義務を負うとして、その債務をXは包括受遺者として承継することを認めました。

  • 3 本判決の意義

    包括遺贈は、通常は、①全財産(積極・消極財産)を包括して遺贈する「全部包括遺贈」か、②全財産(積極・消極財産)の割合的な一部を包括して遺贈する「割合的包括遺贈」かのいずれかであるのですが、そのほかに③本件事案のように特定財産を除いた財産につき積極財産・消極財産を包括して遺贈するという「特定遺贈と包括遺贈の併存型」があることを明示したことに本件判決の大切な意義があります。

  • 4  みなし譲渡所得課税

    遺言作成における実務上の重要事項として、みなし譲渡所得税が遺贈者に発生する場合があることにも注意するべきです。

    遺贈者・被相続人から個人へ財産を遺贈する、あるいは、相続させるときは、みなし譲渡所得課税の適用除外になっておりますが、遺贈者・被相続人から法人や法人格なき社団へ遺贈がなされるときは、原則としてみなし譲渡所得税が遺贈者に対して課されます(なお、受贈者が公益法人であって国税庁長官の特別な承認を得たときは非課税になることもあります)。

    みなし譲渡所得税が生じる場合には、そのみなし譲渡所得税を実際上誰が負担することになるのか(遺贈者・被相続人が死亡した場合には、その遺贈者・被相続人が負担する債務は、誰が承継することになるのか、包括受遺者なのか、法定相続人なのか)等について、遺言書作成の前提として念のため確認しておくことが大事なことになりますので、心すべきです。