弁護士
本橋 光一郎
相続税の延滞税をめぐり納税者が逆転勝訴した重要な最高裁判決(平成26年12月12日)が出されました。
国税庁もこの最高裁判決を受けて延滞税についての実務取扱いを変更する決定をしました。
以下では、この最高裁判決をご紹介いたします。
判決全文は以下に掲載されています。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/689/084689_hanrei.pdf
被相続人には、相続人たる子としてX1(上告人)、X2(上告人)、Aの3名がいました。
相続人X1、X2は、相続税の申告期限内に申告し、
X1は4185万1300円
X2は4556万0600円
を納税しました。
その後、X1、X2は、土地の評価が時価より高かったとして更正請求をしました。
そして、税務署長は、更正請求の一部を認めて、
X1の税額を3035万5500円
X2の税額を3353万9100円
とする減額更正をしまして、X1、X2に対し還付加算金を付加したうえで過納金を返還しました。
それに対し、X1、X2は、それでも高すぎるとして上記減額更正の取消しを求める異議申立をしました。
しかし、税務署長は、異議申立を棄却する決定をしたうえ、その後に再度評価の見直しをして、先の減額更正による税額は少なすぎるとして、
X1の税額を3071万5800円
X2の税額を391万1700円
に増額更正をしました。
X1、X2は、その増額更正に基づき納付不足額(増差税額)を納付しました。
そうしましたら、税務署長よりX1、X2に対し、上記増差税額に対する延滞税(法定納期限の翌日から増差税額の納付日までの間((ただし、法定申告期限から1年を経過する日の翌日から増額更正の通知書が発せられた日までの期間を除く))についてのもの)を求める催告書が送付されてきました。
X1、X2は延滞税の納付義務が存在しないことの確認を求める訴えを提起しました。
第1審は、税務署長の延滞税の支払催告には理由があるとして、X1、X2の請求を棄却しまして、第2審も第1審の判断を正当として、X1、X2の請求を認めませんでした。
しかし、上告審たる最高裁は、第1審、第2審判決を破棄して、X1、X2の請求を全面的に認める逆転勝訴の判決を下しました。
最高裁の判決の結論は、
「相続税につき減額更正がされた後に増額更正がされた場合において、次の(1)、(2)など判示の事情の下では、上記増額更正により新たに納付すべきこととなった税額に係る部分について、上記相続税の法定納期限の翌日からその新たに納付すべきこととなった税額の納期限までの期間に係る延滞税は発生しない。
(1)上記相続税については、法定の期間までに申告及び納付をした納税義務者による更正の請求に基づいて上記減額更正がされ、これにより減額された税額に係る部分につき過納金が還付された後、上記納付をした税額を超えない額に上記増額更正がされた。
(2)上記減額更正は、相続財産である土地の評価の誤りを理由としてされ、上記増額更正は、上記減額更正における土地の評価の誤りを理由としてされた。」
というものです。
最高裁判決の理由の要点は、
①もともと相続人らは申告期間内に、最終的に増額更正で決められた税額より多い金額を納付していた。
②その後、相続人らは、税務署長の財産評価見直しに基づく減額更正により過納金につき還付加算金を付加されて返還を受けた。さらに、税務署長が再度、財産評価見直しをして、増額更正をした。
③このような場合に、増差税額について延滞税の支払を求められるとすると、税務署長が最初から正しい評価に基づく更正をした場合に比して、延滞税の部分に関して、税負担が増えるという相続人らとしては回避しえない不利益を被ることになるが、それは相当ではない。
④そのような場合には、延滞税はそもそも発生しないとするべきである。
というものです。
上記最高裁の判決は、納税者の素直な感覚にも合致するものであり、正当な判断であると考えます。
この最高裁平成26年12月12日判決を受けまして、国税庁は平成27年1月に最高裁判決に沿うように従前の延滞税の取扱いを変更しました。
すなわち、財産の評価誤り等を理由として減額更正した後に、同様の事由(財産の評価誤り等)による増額更正等(ただし、当初申告額未満に限る)をしたことで生じた増差税額につき延滞税を課さないことを決定しました。
また、その国税庁の取扱い変更は、過去の延滞税にも遡及適用されることとして、納税者から異議申立その他の請求を行なうことなしに、税務署等から該当する納税者に対して還付通知書等を送付することを公表しました。
国税庁の対応は、すばやい適切なものであると思料いたします。
国税庁の取扱いをも変更させた今回の最高裁平成26年12月12日判決は実務上も重要なものといえます。