弁護士
本橋 美智子
被相続人に相続人がいない場合には、その相続財産は国庫に帰属します。
しかし、被相続人と特別な縁故にある者(特別縁故者)が家庭裁判所に申立てをして認められると、相続財産の全部または一部の分与を受けることができます。
近年、相続人がいない人が増えたことによって、この特別縁故者に対する相続財産分与の申立てが増加しています。
平成27年の司法統計年報(家事編)によると、昭和40年には189件であった申立てが年々増加して、平成27年には1043件になっています。
そして、特別縁故者への相続財産分与の裁判例も目立つようになりましたので最近の判例を紹介します。
なお、特別縁故者については、本記事の他、以下の記事があります。
特別縁故者に関する最近の裁判例
被相続人が入所していた施設を運営する社会福祉法人が申立てをした事案です。
原審(福井家裁審判平成28年9月26日)は、申立人がした被相続人の療養看護は、両者の利用契約に基づくものであり、特別なものではなかったとして、申立てを却下しました。
しかし、抗告審の名古屋高裁金沢支部は、被相続人は約35年にわたって抗告人の運営する施設に入所し、施設に入所したころはほとんど資産がなかった被相続人が預金を蓄積できたのは、施設利用料が低廉であったこと、施設の行った療養看護は、社会福祉法人として通常期待されるサービスの程度を超えて、近親者の行う世話に匹敵すべきものであるとして、抗告人は特別縁故者に当たると認定し、抗告人に相続財産の全部を分与しました。
被相続人のいとこ5名が特別縁故者として申立をした事案です。
原審(さいたま家裁)は、5名に合計9500万円の財産の分与を認めました。
これに対して、いとこ1人が抗告をしたところ、東京高裁は、申立人らが親族としての情誼に基づく交流を超えるような特に親密な付き合いをしていたことまで認めるに足りる資料はないとして、原審判を取り消し、さいたま家裁に差し戻しました。
この事案では、原審判に対して抗告をしたのは1人だけだったのですが、家事事件手続法206条2項は、特別縁故者に対する相続財産の分与の審判事件が併合されたときは、申立人の一人又は相続財産管理人がした即時抗告は、申立人の全員に対してその効力を生ずると定めていることから、申立人全員について、差し戻しとなっています。
このように、特別縁故者と認められるかどうかについて、判例によって比較的厳しく考えるものと、比較的ゆるやかに認めるものがあります。
また、特別縁故者と認めた場合の、特別縁故者への分与財産の額も、判例によってかなり異なっています。
特別縁故者への相続財産分与が認められるには、被相続人の療養看護に尽くしたこと等についての証拠が重要になります。
介護費用や医療費の負担、介護のための交通費の負担等の領収書や施設訪問の写真等できるだけ証拠を収集することが大切になります。
なお、上記3の東京高裁の決定では、被相続人の葬儀や法要を行ったことは、被相続人との生前における関係ではなくいわゆる死後の縁故であるから、特別縁故者の要件には該当しないとしており、この点はほぼ通説と考えてよいでしょう。