弁護士
本橋 美智子
Xは、実母について保佐開始の審判を申し立てるとともに、保佐開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任すること等を求める審判前の保全処分を申し立てました。
家庭裁判所は、保佐開始の審判が効力を生ずるまでの間、A弁護士を財産管理者に選任し、実母の民法13条1項に規定する財産上の行為につき本件管理者の保佐を受けることを命ずる審判をしました。
その後、本件管理者は、財産目録及び財産の状況についての報告書(本件報告書)を家庭裁判所に提出しました。
Xは本件報告書について、家庭裁判所に謄写の許可の申立て(本件申立て)をしましたが、本件申立ては却下されました。
Xはこれを不服として即時抗告をしましたが、千葉家裁も東京高裁もこの即時抗告を却下しました。
Xは、更に最高裁に抗告しました。
最高裁は、
「本件報告書は、財産管理者の選任後における財産管理業務の適正を期すことを目的として提出を求められるものであるから、保全処分事件についての裁判所及び当事者の共通の資料となる得るものではない。
財産管理者が家庭裁判所に提出した報告書は、保全処分事件の記録には当たらい。
報告書は、Xを当事者とする保全処分事件の記録には当たらず、Xを当事者としない別個の手続の資料として提出されたものであるから、本件申立ては第三者からの申立てで、Xの即時抗告は不適法である。」と判示しました。
家事審判手続における記録の謄写等については、家事事件手続法47条が定めています。
同条は、当事者からの記録謄写等の許可の申立てについては、家庭裁判所は原則としてこれを許可しなければならないとする一方で、利害関係を疎明した第三者からの記録謄写等については、相当と認めるときのみ許可すると規定しています。
また、当事者からの記録謄写等の申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告することができますが、第三者からの記録謄写等の申立てを却下した裁判に対しては即時抗告することができません。
このように、家事審判事件の記録の謄写等については、当事者と第三者の申立てによる場合で、許可の基準や即時抗告できるかがが異なっています。
本件事案においては、保佐の保全処分と財産管理者の報告とは別の事件であり、保全事件の申立てをしたXは、財産管理者の報告については、当事者ではなく第三者であると判示されたのです。
この裁判所の判断は技巧的であるとは思いますが、最高裁が家事事件手続法の記録の意義や閲覧等について初めて判断をしたということで、意味があると思います。