弁護士
本橋 美智子
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書して、これに印を押さなければなりません。
自筆証書遺言は、自分で遺言を書けばよいので、簡単で費用もかかりませんが、公証人のような第三者がチェックする機会がないので、この要件が欠けていて後日無効となる危険があります。
ですから、自筆証書遺言を作成する場合には、くれぐれも、全文、日付氏名の自書、押印を忘れないようにしてください。
平成30年の民法改正で、この自筆証書遺言の要件が一部緩和されました。
自筆証書に一体のものとして財産目録を添付する場合には、財産目録は自書しなくてよく、パソコンやワープロで打ったものでよくなったのです。
しかし、財産目録の各ページに署名、押印をしなければなりません。
財産目録の各ページに署名、押印をすることは、日本の契約等の作成慣行にはあまりないので、これを忘れる可能性があります。
ですから、是非これは注意してください。
Aさんは、令和元年に自筆証書遺言を作成しましたが、これに添付したワープロ打ちの財産目録には、署名捺印がありませんでした。
そのため、Aさんが亡くなった後に、Aさんの二男が、Aさんの妻、長男、遺言執行者に対して、その遺言の無効確認訴訟を提起したのです。
裁判所は、次のように述べて、Aさんの二男の請求を棄却しました。
「自筆証書遺言において、自筆証書に添付された財産目録の毎葉に署名押印がなく、当該目録自体は無効となる場合であっても、当該目録が付随的・付加的意味をもつにとどまり、その部分を除外しても遺言の趣旨が十分に理解され得るときには、当該自筆証書遺言の全体が無効となるものではないというべきである。」
この遺言の財産目録には、生命保険金、預貯金、債券が記載されていましたが、遺言書の本文だけで遺言の趣旨が理解できるものであったことから、本件遺言書全体が無効になることはないと判断されたのです。
しかし、この判断は、あくまで本件遺言書の内容に基づく限定的、救済的なものですので、署名押印がないパソコン等で打った財産目録に一般的に適用になるものではありません。
ですから、自筆証書遺言にパソコン打ちの財産目録を添付する場合には、各ページに署名捺印することを忘れないことが大切です。