弁護士
本橋 美智子
母は、令和2年7月に亡くなりました。
母の二女は平成24年12月に、長男は平成28年1月に、既に亡くなっていました。
そのため、母の相続人は、長女といずれも代襲相続人である二女の子と、長男の子の3人になりました。
母は、平成19年1月に全財産を長女に遺贈することを内容とする自筆証書遺言を残していました。
そこで、二女の子である原告が長女を被告として、遺留分侵害額相当の金銭の支払いを求める訴訟を提起しました。
これに対して、被告である長女は、被相続人である母が、二女(原告の母)の自宅住宅ローンに関する求償債権の連帯保証債務として610万円余りを弁済したこと等が二女ひいては原告の特別受益にあたる等と主張しました。
東京地裁は、「特別受益の持戻しは共同相続人間の不均衡の調整を図ることを趣旨とし、また、代襲相続(民法887条2項)も相続人間の衡平の観点から被代襲者の子らの順位を引き上げる制度であり、被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を代襲相続人に与える必要はなく、被代襲者に特別受益がある場合はその子らである代襲相続人もその利益を享受するのが通常であることからすれば、被代襲者についての特別受益は、その後に代襲相続人となった者との関係でも特別受益に当たるものと解するのが相当である。」と述べて、原告母についての特別受益は、代襲相続人である原告との関係でも特別受益にあたると判示しました。
この判決のように、被代襲者の得た特別受益については、代襲者としては、被代襲者が置かれていたであろう地位より有利な地位に置かれるべきではないので、代襲相続人は、被代襲者の持ち戻し義務を引き継ぐことになるとするのが、通説及び主たる判例です。
これに反して、代襲原因が発生する前に代襲者が受けた贈与については、代襲者の特別受益に当たらないとするのが通説です。
しかし、代襲原因が発生する前の代襲者への贈与であっても、その贈与が実質的には被代襲者への遺産の前渡しとも評価しうる特段の事情がある場合には、代襲者の特別受益にあたるとされた判例があります(福岡高裁平成29年5月18日判決)。