被相続人名義の口座に記録されている振替株式等の共有持分に対する譲渡命令【最高裁平成31年1月23日決定】

弁護士

本橋 美智子

  • 1 社債等振替法

     平成21年1月から「社債等振替法」が施行されています。
     この法律は、有価証券のペーパーレス化(電子化)を目的とするものです。
     この法律の対象となる社債等には、社債、国債、株式等が含まれますが、株式を例に説明すると、振替制度の対象となる株式については、株券は発行されず、証券会社等の口座管理機関の振替口座に、加入者の株式の銘柄や金額等が記録され、株式の帰属は、振替口座簿の記載によって決まることになっています。

  • 2 振替株式の相続手続

     振替口座簿に記載された株式の名義人(被相続人)が死亡した場合には、通常は、共同相続人全員の遺産分割協議によって、当該株式の取得者を決め、その取得者が口座管理機関に自分名義の口座を開設し、その口座に振替株式の振替手続をします。
     遺産分割未了の状態で、共同相続人の1人が、被相続人が開設している口座管理機関に対し、振替株式に対する準共有持分を減少させ、自分が開設する証券口座に当該減少分を増加させる振替の申請をすることはできません。

  • 3 被相続人名義の振替株式に対する強制執行

     相続が開始されても、振替株式が被相続人名義のままになっていることもあります。
     その場合に、相続人の1人の債権者が、振替株式についての相続人の共有持分について、差押命令、譲渡命令の申立てができるかが争われたのが、この判例です。

  • 4 最高裁決定の内容

     最高裁は、概略次のように述べて、被相続人名義の口座に記載されている振替株式の共有持分に対する差押命令、譲渡命令を認めました。
    ① 被相続人が有していた振替株式等は相続開始とともに当然に相続人に承継され、口座管理機関における口座開設者としての地位も同様に当然に相続人に承継される。
     そうすると、被相続人名義の口座に記録されている振替株式等は、相続人の口座に記録等がされているものとみることができる。
    ② 共同相続により債務者が承継した共有持分に対する差押命令は、違法であるということはできない。
    ③ 共同相続された振替株式等につき共同相続人の1人の名義の口座にその共有持分の記録等ができないからといって、譲渡命令を発することができないことはなく、譲渡命令の効力が生じ得ないものとはいえない。

  • 5 具体的な手続

     相続人の1人の債権者が、振替株式等の共有持分について、差押命令、譲渡命令を得て確定した場合には、差押債権者の債権及び執行費用は、執行裁判所が定めた譲渡価額で弁済されたものとみなされます。
     また、現在、口座管理機関は、共有口座の開設はしていないので、差押債権者と債務者以外の共同相続人の共同口座に振替株式等の記録をすることはできません。
     そのため、差押をして譲渡命令を得た債権者としては、債務者以外の共同相続人に対し、振替株式について共有物分割請求をすることになると思います。
     なお、具体的手続については、未だ未確定な部分があり、今後の実務や議論によって変わる可能性はあります。