弁護士
本橋 美智子
この判例は、多岐にわたる論点について判示していますが、ここでは、複数の包括遺贈のうち1つが受贈者の放棄によって効力を有しなかった場合に、その包括受贈者が受けるべきであったもの(失効受遺分)は、誰に帰属するかの点についてだけ、説明します。
平成20年にA(父)が死亡し、平成21年にBが公正証書遺言を作成しました。その内容は一切の財産を、① D(長女)に2分の1の割合で相続させ、➁ F(長女の子)に3分の1の割合で遺贈し、③ E(長男の子)に6分の1の割合で遺贈するというものでした。
平成23年2月にBが死亡し、Eは、本件遺言に係る遺贈を放棄しました。
最高裁は、本論点について、
「民法995条は、本文において、遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属すると定め、ただし書において、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うと定めている。そして、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(同法990条)ものの、相続人ではない。同法995条本文は、上記の受遺者が受けるべきであったものが相続人と上記受遺者以外の包括受遺者とのいずれに帰属するかが問題となる場面において、これが「相続人」に帰属する旨を定めた規定であり、その文理に照らして、包括受遺者は同条の「相続人」には含まれないと解される。そうすると、複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生せず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属すると解するのが相当である。」と判示しました。
本件では、Eが6分の1の割合の包括遺贈を放棄したので、その分は、他の包括受遺者であるFに帰属するのではなく、相続人であるDとCに帰属することになります。
そして、この結論は、現在では通説になっています。
なお、民法995条は「遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」と定めています。
その場合に、受遺者が放棄した失効受遺分の取得について、遺言で書いていない場合には、その失効受遺分は、相続人に帰属することになります。
遺言を作成する場合には、この点も念頭において、遺贈について書く必要があります。