弁護士
本橋 美智子
父は、平成31年に死亡し、相続人は、長男、二男、長女の3人でした。
二男が長男、長女に対して、父の遺産分割の調停、審判の申立てをしました。
その中で問題になったのは、父が昭和61年に長男に対して、アパートとその敷地(あわせて「本件不動産」という)を贈与し(本件贈与)、父がアパート建築のために銀行から借り入れた債務(元本残高2481万円、本件債務)を長男が免責的に引き受けたことでした。
その後、長男は、アパートからの賃料収入で、利息を含めて総額4045万円を返済して、本件債務を完済しました。
この贈与が、長男の特別受益として遺産に持ち戻される場合に、特別受益額をどのように計算するかが問題となったのです。
家裁の審判は、①本件贈与後も、父が管理していた長男名義の預金口座を用い、同口座に入金されるアパートの賃料収入を原資として本件債務の支払がされたこと、②アパートの税金等の支払手続は父が行っていたこと、③本件債務を完済した後のアパートの賃料収入を長男が取得したこと等に鑑みると、長男が免責的に引き受けた本件債務を負担の価額として控除することは相続人間の公平に照らし相当でないので、本件贈与を負担付贈与ではなく、単純贈与と評価すべきであるとして、本件不動産の相続開始時の評価額である3335万円全額を長男の特別受益として持ち戻すのが相当であると判断しました。
ところが、抗告審の東京高裁は、本件贈与は、単純贈与ではなく負担付贈与であると判示しました。
そして、「負担の価額」は引受債務の残元金であり、その後に発生する利息債務は含まれないとし、㋐贈与時における贈与の目的物の価額(4005万円)から引受債務の残元金(2481万円)を控除した部分(1524万円、全体の約38%)が受贈者の特別受益部分であるとした上で、㋑相続開始時における贈与の目的物の価額(3335万円)に当該特別受益部分の割合を乗じた額(1267万円)が「贈与の価額」(受益者の特別受益額)であると判示しました。
1 この高裁の決定の計算方法が、実務の一般的特別受益の計算方法であると思います。
2 家裁の審判が述べるように、この方法ですと、長男が自分自身の拠出なしに、結果として本件
不動産全体を取得したことになります。
しかし、法律論ですと、これは負担付贈与と考えられ、高裁の計算方法で特別受益額が算定さ
れることになります。