弁護士
前田光貴
本件は、父母の婚姻中に未成熟子が死亡し、その後に父母が離婚した場合、亡児の祭祀主宰者は誰か、他方からの分骨請求は認められるかなどが争われた事案です。
本決定は、父を祭祀主宰者とし、父を遺骨の管理者とすることに父母間の合意があったと認定して、管理者たる父による改葬を許容し、分骨を認めるべき特別の事情はないとして母からの分骨請求を退けました。本決定は、亡児の供養や遺骨の帰属をめぐる紛争に関する事例として、参考になりますので、ご紹介いたします。
①昭和46年、被相続人Cの母A(抗告人)と父B(相手方)が婚姻。
②昭和48年、長男Cが生まれたが、Cは10歳で死亡した(相続人はAと B。なおAB間には他
に二子がある)。
③Bは喪主として葬儀を執り行い、Bを墓地使用者としてD霊園に墓地を借り、墓石を購入して墳
墓を設け、Cの焼骨を埋蔵した。
④平成7年、AとBは、二子の親権者をAと定めて調停離婚し、財産分与調停において「墓地につ
いてはBにおいて管理し、Aは随時墓参すること」との調停合意が成立した。
⑤Bは、離婚後も上記墓地の管理料等の支払いを続け、随時墓参りをし、Aも随時墓参りをしてい
た。
⑥平成27年、Bは、自分の死後、本件墳墓が無縁仏となることを懸念し、実家近くの墓所内に設
けた新たな墳墓にCの遺骨を改葬した。
⑦平成29年、AはBに対して、Cの遺骨の所有権取得者をAと定めることを求めて、民法897
条2項に基づき、主位的にCの祭祀財産の承継者をAと定める処分を、予備的に本件遺骨の分骨
手続及び分骨の引渡しを求めて本件を申し立てた。
1 主位的申立て(祭祀承継者の指定)について
(1)抗告人と相手方は、平成7年、離婚後の財産分与調停事件において、「(被相続人の)墓地
については相手方において管理し、申立人(抗告人)は随時墓参することとする。」との調停
条項を含む調停を成立させている。そして、相手方は、上記の調停に先立ち、現に被相続人の
喪主として葬儀を執り行い、D霊園の墓地を借り受け、本件遺骨を納骨してその祭祀を主宰す
ることを開始し、上記の調停後も本件遺骨の改葬まで約20年の永きにわたって管理料を支払
うなどして墓地の管理を継続してきたのである。そうすると、抗告人と相手方の間では、遅く
とも上記調停の成立時には被相続人の祭祀主宰者を相手方と定める旨の協議(合意)が成立し
たと認めるのが相当である。
(2)抗告人は、相手方が、その後、本件遺骨を改葬し、抗告人、長女及び二女による墓参に支障
を生じさせ、祭祀主宰者としての適格性を喪失するに至ったから、被相続人の祭祀主宰者を相
手方から抗告人に変更すべきであるとも主張する。
しかし、相手方は、被相続人の墳墓を約20年の永きにわたって管理料を支払うなどして管
理してきたが、自身が高齢化するにつれ、死亡後、管理料が支払われずに無縁墳墓となること
を懸念するようになり、これを契機として本件遺骨の改葬を決め、●●●県内のE家墓所に祖
先の墳墓とは別に被相続人の墳墓を設置して本件遺骨を埋蔵したものである。このように、相
手方が本件遺骨を改葬したのは、相手方の死後もその親族によって被相続人の墳墓を維持・管
理させるためであって、祭祀主宰者の判断として相応の必要性や合理性が認められる。
2 予備的申立て(分骨)について
抗告人は、相手方が本件遺骨を改葬するなどして、抗告人、長女及び二女の墓参を拒んでい
ることから、本件遺骨の分骨手続及び当該分骨の引渡しを認める必要があるし、本件遺骨の分
骨そのものは物理的に可能でありこれを禁ずる根拠もないから、民法897条2項に基づき、
本件遺骨を分骨し抗告人に引き渡すべきであると主張する。
しかし、本件記録によっても、相手方が抗告人らの墓参を拒んでいると認めるに足りる資料
はない。むしろ、相手方は、本件遺骨の改葬に際し、祖先の墳墓とは別に設置した被相続人の
墳墓に本件遺骨を埋蔵し、抗告人らの心情や墓参の便宜に配慮している。その上、相手方は、
抗告人との協議により被相続人の祭祀主宰者と指定された後、約20年の永きにわたって管理
料を支払うなどして本件遺骨を埋蔵した被相続人の墳墓の管理を継続している。これに対し、
抗告人は、この間、相手方とは没交渉であったが、法事の機会には被相続人の墳墓に自由に墓
参するとともに、相手方による祭祀には何らの異議も述べずに相手方に一任してきたという経
緯がある。そのような相手方において、本件に先立つ当事者間の民事訴訟においても、本件遺
骨の分骨に強く反対していることも総合すれば、祭祀の対象となる本件遺骨の一部を抗告人に
分属させなければならない特別の事情があるということはできない。
1 祭祀承継者指定の合意について
本決定は、子C死亡の際に父Bが喪主を務め、墓地を借り受けて納骨することで祭祀主宰を開
始し、その後約20年間にわたって墓地管理料を支払うなどしていたことから、遅くとも離婚に
伴う財産分与調停の成立時までに、AB間にBを祭祀主宰者とする合意が成立したと判示しまし
た。
裁判所の認定した事実を踏まえると、BをCの祭祀主宰者とした判断は相当と考えます。
2 分骨請求の可否について
原審(大阪家裁堺支部平成29年10月26日付審判)では、分骨請求の根拠がないとしたも
のの、抗告審では、分骨を認める「特別の事情」がないとしました。
祭祀財産については、特別の事情がある場合には、複数の祭祀主宰者やその分属が認められて
います(奈良家裁平成13年6月14日審判)。遺骨の帰属をめぐる紛争についても、民法89
7条の祭祀主宰者ないし承継者に帰属するという考えを踏まえ、分骨を必要とする特別の事情が
ある場合には、同条を根拠として分骨請求を認める余地があるように思われます。
抗告審は、このような立場から検討を加え、本件では、本件遺骨の一部をAに分属させなけれ
ばならない特別の事情はないとして、分骨請求についても理由がないとしたものと考えられま
す。
以上