被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は、被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができないとされた事例 (被相続人の親が姪を養子にしていた場合に養子縁組の前に生まれた子がいるとしても、その子は被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることはできないとされた事例) 【最高裁判所第三小法廷令和6年11月12日判決】

弁護士

前田光貴

  • 第1 はじめに

     本件は、Xらが、被相続人の死亡以前に死亡したBを代襲して被相続人の相続人となるとして、被相続人の遺産である土地及び建物について、相続を原因とする所有権移登記及び持分移転登記の各申請をしたところ、これを却下する旨の各決定を受けたため、各決定の取消しを求める事案です。
     被相続人の兄弟姉妹が相続人となるべき場合において、兄弟姉妹が相続開始以前に死亡したとき等に、民法889条2項において準用する同法887条2項ただし書(「ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」)により、被相続人の傍系卑属でない者は兄弟姉妹を代襲して相続人となることができないが、傍系卑属であれば代襲相続人となることができるかという間題について、本判決は実務上参考になるものと思われますので、ご紹介いたします。

  • 第2 事案の概要


    ①被上告人(X)らは、いずれもBとその夫との間に出生した子である。被相続人Cは、Bの母の姉であるDの子である。Bは、Xらの出生後の平成3年▲月にDとの間で養子縁組をし、これにより被相続人の妹となった後、平成14年▲月に死亡した。
    ②被相続人は、平成31年▲月に死亡した。被相続人には、子その他の直系卑属及びB以外の兄弟姉妹はおらず、死亡時においては直系尊属及び配偶者もいなかった。
    ③Xらは、令和2年6月22日、民法889条2項において準用する同法887条2項の規定によりBを代襲して本件被相続人の相続人となるとして、本件被相続人の遺産である土地及び建物につき、相続を原因とする所有権移転登記及び持分全部移転登記の各申請をした。
    ④横浜地方法務局川崎支局登記官は、同年9月2日付けで、上記各申請は不動産登記法25条4号の「申請の権限を有しない者の申請」に当たるとして、これを却下する旨の各決定をした。

  • 第3 当事者の主張

    1 上告人の主張
     被相続人の兄弟姉妹の代襲相続においては、少なくとも、代襲相続人が被相続人と被代襲者の共通する親の直系卑属であること(本件要件)が必要であるところ、Xらは本件要件を満たさないから、本件被相続人を代襲相続するものではない。
    2 被上告人(X)らの主張
     民法889条2項による同法887条2項ただし書の準用においては、同項ただし書を「ただし、被相続人の傍系卑属でない者は、この限りでない。」と読み替える解釈をするのが相当であるから、Xらは、本件被相続人を代襲相続することができる。

  • 第4 一審及び控訴審の判断

    1 一審(横浜地裁令和4年4月13日判決)
     被相続人の兄弟姉妹の代襲相続においては、少なくとも、代襲相続人が被相続人と被代襲者の共通する親の直系卑属であること(本件要件)が必要であるところ、Xらは本件要件を満たさないから、本件被相続人を代襲相続するものではない。
    2 控訴審(東京高裁令和5年1月18日判決)
     民法889条2項による同法887条2項ただし書の準用においては、同項ただし書を「ただし、被相続人の傍系卑属でない者は、この限りでない。」と読み替える解釈をするのが相当であるから、Xらは、本件被相続人を代襲相続することができる。

  • 第5 最高裁判決

    1 結論
     Xらは、本件被相続人とBの共通する親であるDの直系卑属でないから、Bを代襲して本件被相続人の相続人となることができない。
    2 理由
     民法887条2項ただし書は、被相続人の子が相続開始以前に死亡した場合等について、被相続人の子の子のうち被相続人の直系卑属でない者は被相続人の子を代襲して相続人となることができない旨を規定している。これは、被相続人の子が被相続人の養子である場合、養子縁組前から当該子の子である者(いわゆる養子縁組前の養子の子)は、被相続人との間に当該養子縁組による血族関係を生じないこと(民法727条、大審院昭和7年5月11日判決・民集11巻11号1062頁参照)から、養子を代襲して相続人となることができないことを明らかにしたものである。そうすると、民法889条2項において準用する同法887条2項ただし書も、被相続人の兄弟姉妹が被相続人の親の養子である場合に、被相続人との間に養子縁組による血族関係を生ずることのない養子縁組前の養子の子(この場合の養子縁組前の養子の子は、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者に当たる。)は、養子を代襲して相続人となることができない旨を定めたものと解される。したがって、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は、被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができないと解するのが相当である。

  • 第6 コメント

     本件の争点は、民法889条2項において準用する同法887条2項のただし書「ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」の解釈が問題となりました。
     Xらは、「被相続人の直系卑属」を「被相続人の傍系卑属」又は「被相続人の血族」と読み替えるだけで足りると主張したのに対し、国側は「被相続人と被代襲者の共通する親の直系卑属であることが必要」と主張しました。
     代襲相続に関する民法の規定は、祖父母から孫への「直系」型は養子縁組前に生まれた子どもを明確に(被相続人の直系卑属でない者として)対象外としています。一方で、おじ・おばからおい・めいへの「傍系」型に関しては、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合に当該兄弟姉妹の子が被相続人の直系卑属であることは想定されないことから、同法887条2項ただし書の「被相続人の直系卑属でない者」をそのままあてはめることができないため、当該規定の適用について不明瞭な部分がありました。
     本判決では、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は、被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができないとの判断を示しました。これまでの法改正の経緯、民法887条2項ただし書の趣旨(及び同法889条2項の趣旨)、そして、大審院昭和7年5月11日判決との整合性等を踏まえますと、本判決で示した解釈は妥当といえます。