弁護士
下田 俊夫
本件は、被相続人が居住し、被相続人の遺産である土地が存する地方公共団体(市)が、改正前民法958条の3第1項の特別縁故者に該当するとして、被相続人の遺産である土地4筆の分与を求めた事案です。
本審判は、公法人である市が特別縁故者に該当するとして、財産の分与が肯定された事例の一つとして参考になりますので、ご紹介いたします。
被相続人Bの亡母Dは、A市に居住して地域の小学校の教員を長年務め、地域の発展に対する想い(郷土愛)が強い人でした。被相続人Bは、亡母Dの想いを受け継いでいました。
被相続人の遺産は、A市に存する土地4筆でした。
土地①及び土地②は、市道の敷地としてA市が無償使用し、A市が管理していました。
土地③は、市道に接する土地で、近隣の小学校の通学路として多くの小学生が利用し、亡母D(亡母Dの死亡後は被相続人B)が草木伐採など土地の管理をA市及び地元のE自治会に任せていました。
土地④は、E自治会がA市から貸与を受けて、蛍を育成しあやめを植栽して市民の憩いの場となっている場所として管理する湿地帯の水源となっている土地で、湿地帯を管理する上で必要不可欠な土地でした。亡母D(亡母Dの死亡後は被相続人B)は、生前土地の管理をA市及びE自治会に任せるとともに、A市への寄付の意向も示していました。
被相続人Bが亡くなった後、A市は、遺産である土地の利用について被相続人と特別の縁故があったとして、民法958条の3(現行民法958条の2)に基づき、申立人への財産の分与を申し立てました。
裁判所は、次の通り判示して、被相続人の遺産である土地4筆のA市への分与を認めました。
「被相続人は、亡Dの意向を受け継ぎ、本件各土地を長年にわたり地元の公共財産としてその用に供してきており、将来的にも現状が維持されることを望んでいたと認められる。そうすると、申立人は、相続人の相続財産である本件各土地の維持・管理を通じて、生前、被相続人と密接な交流があり、本件各土地を申立人に分与することが被相続人の意思にも合致するというべきであって、申立人は、「その他被相続人と特別の縁故があった者」([改正前]民法958条の3第1項)に該当するものと認められる。」
本件でA市は、被相続人と生計を同じくしたことはなく、その療養看護に努めたことはありませんでした。もっとも、亡母Dと、その想いを受け継いだ被相続人Bは、土地④については生前にA市への寄付の意向を述べていたこと、他の土地についても市道として市に無償使用させ、また、管理をA市やE自治会に委ねるなどしていました。裁判所は、このような事情を考慮して、4筆の土地を全てA市に分与することは被相続人の意思に合致するとして、分与を認めました。
本件は、遺言はなかったものの、結果的に、市への寄付の意向が実現されたケースといえますが、より確実に寄付を実現させるのであれば、遺言でその旨を書き記しておくことが考えられます。
以上