死後縁組の申立てを許可した事例【大阪高決令3.3.30】

弁護士

下田 俊夫

  • 1 はじめに

     養子縁組をした後、縁組の当事者は、協議して離縁することができます(民法811条1項)。
     縁組の一方当事者が死亡した後は、協議して離縁することはできませんが、生存当事者は、家庭裁判所の許可を得て、離縁をすることができます(死後離縁。民法811条6項)。この死後離縁に関する規定は、養親又は養子が死亡後に他方当事者を法定血族関係で拘束することが不相当になった場合、生存当事者の利益を考慮して死後離縁を認めることとし、その際、道義に反するような生存当事者の恣意的離縁を防止するために、死後離縁を家庭裁判所の許可にかからしめたものと解されています。
     養親が、先に亡くなった養子との死後離縁の申立てをしたところ、一審の家庭裁判所がその申立てが恣意的なものであるとして却下しましたが、抗告審の高等裁判所が一審の審判を取り消して死後離縁の申立てを許可した最近の事案を紹介します。

  • 2 事案の概要

     養親夫婦(夫X・妻A)は、家と同族会社の後継者とするため、長女の夫Bと養子縁組しました。その後、長女夫婦には子がいなかったため、将来の後継者とするためにXA夫婦の二女の三男Yと養子縁組しました。
     Bが亡くなり、その年にYは同族会社の代表取締役に就任し、Bの葬儀や一周忌法要を主催したほか、Bの相続により約7400万円の遺産を相続しました。さらに同じ年にXの妻Aが亡くなり、Yは相続によりBを代襲して約1億2700万円の遺産を相続しました。
     その後、XとYは同族会社の経営を巡って対立するようになり、関係が著しく悪化し、Yは同族会社の代表取締役と取締役を辞任し、亡Bや亡Aの法要も欠席しました。
     Xは、YをXの推定代襲相続人の地位にとどめたくないとの意思を有するに至り、Xと亡Bとの養子縁組の解消を求めて、死後離縁を申立てました。

  • 3 裁判所の判断

     一審(神戸家庭裁判所姫路支部)は、推定相続人廃除の手続によらずYから推定代襲相続人の地位を失わしめる目的でなされた恣意的なものであるとして、申立てを却下しました。これに対してXが抗告したところ、抗告審(大阪高等裁判所)は、次のように述べて一審の審判を取消し、死後離縁の申立てを許可しました。
    「養子縁組は、養親と養子の個人的関係を中核とするものであることなどからすれば、家庭裁判所は、死後離縁の申立てが生存養親又は養子の真意に基づくものである限り、原則としてこれを許可すべきであるが、離縁により養子の未成年の子が養親から扶養を受けられず生活に困窮することとなるなど、当該申立てについて社会通念上容認し得ない事情がある場合には、これを許可すべきではないと解される。」
    「Xと亡A夫婦は、亡Aが引き継いできたS家の財産やT社の経営を承継させることを目的として、亡Bと養子縁組したものであるところ、亡Bは、Xと亡Aよりも先に死亡して、その目的を遂げることができなくなったことが認められる。そして、Yは、亡Bの死亡により、Xの代襲相続人の地位を取得したものではあるが、既に、大学を卒業して就労実績もある上、亡B及び亡Aから相当多額の遺産を相続しているものであって、上記代襲相続人の地位を喪失することとなったとしても、生活に困窮するなどの事情はおよそ認められない。その上、XとYとの関係は著しく悪化しており、T社の代表取締役及び取締役を辞任したことも認められる。
     上記の諸事情に照らせば、本件申立てを許可することにより、YがXの代襲相続人の地位を失うことになることを踏まえても、本件申立てについて、社会通念上容認し得ない事情があるということはできない。」

  • 4 コメント

     死後離縁が許可されるか否かについて、一般論としては、死後離縁の申立てが法定血族間の道義に反する恣意的な場合、あるいは、社会通念上許容し得ない事情がある場合、許可すべきではないとされています。
     死後離縁の申立てが許可されない具体的なケースとしては、次のような場合があります。
    ①養親からの死後離縁で、離縁により養子の未成年の子が養親から扶養を受けられずに生活に困窮することとなる場合(本高裁決定での例示)
    ②養子からの死後離縁で、相続や扶養により多大の利益を受けた養子が、生存する祖父母(養親の親)の扶養などを免れるために不当に養親族間から離脱する場合
    ③その他、死後離縁の申立てが、養親の親族による強要に基づくといった事情や、専ら祖先の祭祀を免れる目的でされたという事情が存する場合
     もし縁組当事者の一方が死亡した後に死後離縁の申立てをしようとする場合、上記のような事情があると許可されない可能性がありますので、留意が必要です。