特別縁故者に対する相続財産の分与申立事件において、申立て後、審判前に死亡した申立人の相続人らに相続財産の一部を分与した事例【山口家裁周南支部審判令3.3.29】

弁護士

下田 俊夫

  • 1 はじめに

     被相続人に相続人がいない場合、被相続人の有していた財産は、最終的には国庫に帰属することになります。しかしながら、常に国のものになるというわけではありません。相続人がいない場合、一定の要件をみたし、かつ、所定の手続を行えば、被相続人と特別の縁故があった者(特別縁故者)が、相続財産の一部ないし全部を取得できることがあります。これが特別縁故者による相続財産分与の請求です。
     この特別縁故者による相続財産分与の請求は、一身専属性を有する恩恵的な権利とされています。そのため、相続の対象とはならず、特別縁故者が申立てをしないまま死亡した場合、その相続人は特別縁故者の地位を承継することはできないと解されています(通説・判例)。
     他方、特別縁故者に対する相続財産の分与を申し立てた後に、その申立人が死亡した場合、死亡したときの地位の相続が認められるのでしょうか。多数説と裁判例の多数は特別縁故者の地位の相続を認めています。相続を認めた裁判例について、以下に紹介します。

  • 2 事案の概要

     被相続人には妻と子どもはおらず、両親も兄も既に死亡しており、相続人がいませんでした。被相続人と生前に交流のあった被相続人の母の弟(被相続人の叔父)が、特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てを行い、被相続人の家の墓じまいや永代供養のために必要となる費用300万円程度の分与を求めました。
     被相続人の相続財産は、居住していた住居(固定資産評価額で約700万円)と現預金(約3600万円)でした。
    被相続人の叔父が申し立てた後、審判までの間に死亡したため、その相続人(申立人の妻Aと子BCDの3人)が手続を受継しました。子Bは、申立人の遺志を引き継いで墓じまいや永代供養を行う意向を示しました。

  • 3 裁判所の判断

     裁判所は、「特別縁故者に対する相続財産分与を申し立てた者が、申立て後、死亡したときは、その者の相続人は、その者の申立人としての地位を承継して財産の分与を求めうると解される。ただし、特別縁故者に対する相続財産の分与は、特別縁故者その人に対するものであっても、家庭裁判所が「相当と認めるとき」(民法958条の3第1項)に限り行われるべきものであるから、申立て後、死亡した者が特別縁故者に該当する場合であっても、その相続人に相続財産を分与することの相当性は、被相続人と死亡した特別縁故者の相続人との間及び死亡した特別縁故者とその相続人との間の関係、申立て後、死亡した者が特別縁故者と認められる事情に対するその相続人の関わりの有無、程度等の諸事情も勘案して判断することが相当であって、各相続人に分与する財産の割合も必ずしも法定相続分に従う必要はないというべきである。」と判示しました。そして、墓じまいや永代供養を行う意向を示した子Bには、そのために必要な費用及び尽力に対応する分として320万円を分与し、さらに被相続人の生前及び死後における亡くなった申立人による尽力に対する謝礼の趣旨を勘案して90万円を分与して、申立人の相続人らの法定相続分に応じて分配するとして、妻Aに45万円、子3人に各15万円(子Bはトータルで335万円)の分与を認めました。

  • 4 コメント

     特別縁故者に対する相続財産の分与を申し立てた後に、その申立人が死亡した場合、死亡したときの地位の相続の可否については、申立てにより分与を現実的に期待できる財産的な地位を得るとして、相続を認めるというのが多数説・裁判例の多数です。
     上記審判も、裁判例の多数と同様、特別縁故者の地位の相続を認めましたが、さらに、特別縁故者の相続人に対する分与の相当性の判断基準を検討し、法定相続分とは異なる分与の割合を定めることができるとしました。
     特別縁故者の相続人であっても、被相続人や特別縁故者との関係は様々です。特別縁故者とともに被相続人の療養看護や密接な交流に努めたなど、その関わりが強かった者であれば、当該相続人が特別縁故者による療養看護等の履行補助者のような立場にあったとして、他の相続人よりも多くの分与が認められるケースもありうると考えられます。