弁護士
下田 俊夫
この事件は、銀行借入れをして取得した不動産の路線価評価が否認された事例の上告審判決です。
亡くなる2~3年前に銀行借り入れをして収益マンション2棟を購入した被相続人の相続人が相続税申告をするに際し、マンションの評価について路線価評価(通達評価額)により算定したところ、課税庁は例外的に認められるいわゆる「伝家の宝刀」によって鑑定価額で評価を行い、更正処分を行いました。相続人はこの処分を不服として訴訟を起こしましたが、一審及び控訴審ともに相続人の請求を否定したため、相続人が上告・上告受理申立てをしました。
その後、最高裁判所が口頭弁論を開くことを決めたことから、控訴審判決が見直されるのではないか・例外規定がどのような場合に適用できるかについて初判断を示すのではないかと言われていました。
最高裁は、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、例外規定を適用することが許されるとの初判断を示しました。
その上で、本件については、銀行借り入れにより収益物件を購入するなどした節税策により、購入等がなければ2億円を超える相続税がゼロになったこと、被相続人と相続人が、不動産の購入等が近い将来発生する被相続人の相続における相続税の負担を減免させることを知り、かつ、これを期待して、あえて購入等を企画して実行して租税負担の軽減を意図して行ったものであるから、購入等の行為をせず、又はすることのできない他の納税者と相続人らとの間に看過しがたい不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するから、上記事情があるとして、相続人らの上告を棄却しました。
今回の最高裁判決は、「伝家の宝刀」たる例外規定を適用することが許されるとの初判断を示した上で、銀行借り入れによる収益マンションの購入がなければ2億円を超える相続税をゼロとした相続税申告に例外規定を適用して、路線価によらず税務署が独自に鑑定評価して追徴課税したことを適法としており、行き過ぎた節税策に警鐘を鳴らしたものといえます。
ただ、今回の最高裁判決では、どのような場合に例外規定が適用されるかについて明確な基準が示されなかったため、税負担が予測できないという問題があります。
判決文によると、単に路線価による評価と実勢価格の差が大きいだけでは例外規定の適用はできないとする一方で(本件では4倍程度の差でした)、相続税の負担軽減を意図して不動産の購入と資金の借り入れが行われ、かつ、実際に購入借り入れがなければ2億円を超える相続税額がゼロになったことを指摘した上で例外規定の適用が許されていると判示していることから、意図目的(主観的要素)及び実際の節税効果(客観的要素)の両者を重視しているものと思われます。
行き過ぎた節税策は、後になって否定される可能性があることを理解しておく必要があります。