弁護士
下田 俊夫
特別寄与料制度は、相続人ではない被相続人の親族が被相続人の療養看護に努めるなどの貢献を行った場合に、このような貢献をした者が、その貢献に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができるとする制度であり、平成30年改正相続法により創設されました。
特別寄与料の負担について、相続人が複数いる場合には、各相続人は特別寄与料の額にその相続人の相続分を乗じた額を負担するとされています(民法1050条5項)。遺言によって相続分の指定がされた場合は、各相続人がその指定相続分に応じて特別寄与料を負担するのが相続人間の公平に適うと考えられることから、指定相続分の割合により特別寄与料の支払義務を負担するとされました。
それでは、遺言により相続分がないとされた相続人が遺留分侵害額請求権を行使した場合に、特別寄与者は当該相続人に対し、特別寄与料を請求することができるのでしょうか。この点が争われて最高裁が判断した事案について紹介します。
被相続人Aが、子Bに財産全部を相続させる遺言を作成して亡くなった後、別の子YがBに対し、遺留分侵害額請求権を行使しました。その後、Bの妻であるXがYに対し、特別寄与料の支払を求めたところ、原審(名古屋高裁)は、遺言により相続分がないものと指定された相続人は特別寄与料を負担せず、このことは当該相続人が遺留分侵害額請求権を行使したとしても左右されないと判断し、Xの申立てを却下しました。
Xは、遺言により相続分がないものと指定された相続人であっても、遺留分侵害額請求権を行使した場合には、遺産の一部を取得することになるのであるから、特別寄与料について遺留分に応じた額を負担するのが相当であるとして、許可抗告の申立てをしました。
「民法1050条5項は、相続人が数人ある場合における各相続人の特別寄与料の負担割合について、相続人間の公平に配慮しつつ、特別寄与料をめぐる紛争の複雑化、長期化を防止する観点から、相続人の構成、遺言の有無及びその内容により定まる明確な基準である法定相続分等によることとしたものと解される。このような同項の趣旨に照らせば、遺留分侵害額請求権の行使という同項が規定しない事情によって、上記負担割合が法定相続分等から修正されるものではないというべきである。
そうすると、遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しないと解するのが相当である。」
民法1050条5項は、特別寄与料の負担割合について、相続分に応じて負担することを定めています。最高裁は、同条が明確な基準である相続分による負担割合を定めた趣旨を踏まえて、遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しないとの判断を示しました。相続人間の実質的公平の貫徹よりも、紛争の複雑化・長期化を避けることを優先したものといえます。
特別寄与料制度が創設された経緯からしますと、最高裁の結論は妥当であると考えられます。